• 東京から北海道へ移住を決めた「あたらしい日常料理 ふじわら」の藤原奈緒さん。今ある肩書きにとらわれず、自分らしく軽やかに生きる。人生の転機を迎え、あたらしい自分に出逢っていく冒険の日々を綴ります。今回は、暮らしの大切さを教わった、東京の団地について。

    移住を機に振り返る、東京・郊外での団地暮らし

    遡って2018年。わたしは38歳で、突然家を買いました。

    買うつもりなどこれっぽっちもなかったのです。ただ、住み慣れたJR中央線の三鷹から国分寺の間に家を探すこと数年、賃貸でしっくりくる部屋が見当たりませんでした。

    家探しは難しいものです。家賃と広さのバランス、収納や水まわり、駅からの距離に周辺環境。おしゃれな家には住みたいけれど、コンクリートの壁の家にはどうしても住む気がしなかった。

    画像: 四角くて白い、余白を感じるような古い建物が好きです 撮影/清永洋

    四角くて白い、余白を感じるような古い建物が好きです
    撮影/清永洋

    そんなとき、後学のために…と見に行った築50年の団地をリノベーションした物件に、すこしも嫌なところがなかった。いろいろ細かいところにうるさい自分にとって、「嫌なところがない」ということは珍しいことなのです。

    団地には以前も住んでいたことがあって、その良さは知っていました。日当たりと風通しがいいこと、値段のわりに広いこと、敷地内の植栽がきれいなこと。

    わたしは修業時代、長らくとても小さな部屋に寝るためだけに帰っていたので、そのあと団地で暮らしはじめたとき、人が文化的に暮らすために作られた場だと感じて感動したのを覚えています。

    画像: 備え付けのキッチンカウンター、素足に気持ちいい無垢の床。二重の窓は冬あたたかく、また光がやわらかかった。そのままで「ちょうどいい」と感じるリノベーションがされていました 撮影/清永洋

    備え付けのキッチンカウンター、素足に気持ちいい無垢の床。二重の窓は冬あたたかく、また光がやわらかかった。そのままで「ちょうどいい」と感じるリノベーションがされていました
    撮影/清永洋

    建物同士に間隔があるので、4階の部屋はカーテンをしなくても誰の目も気にしなくていいのも心地よかった。

    郊外ならこんな値段で家が買えるんだ。思わずこれまでの東京生活で払った家賃を計算しました。現実的に思えた価格だったことも大きく、お金を貸してくれるなら買ってみよう、と割と軽い気持ちで申し込みました。

    画像: 手を加えたのは壁に珪藻土を塗ったことだけ。調湿の効果が心地よく、また手触りある質感が好きな古いものたちとなじんでくれました 撮影/清永洋

    手を加えたのは壁に珪藻土を塗ったことだけ。調湿の効果が心地よく、また手触りある質感が好きな古いものたちとなじんでくれました
    撮影/清永洋

    いずれ建て替えになるかもしれないという話は、実は最初からありました。ただ、10年くらいは住めるだろう。もし早まったとしてもそのときが移住のタイミング、そう思ったのには、駅から近い団地は資産価値が下がりにくいことが頭にあったのもあり、思ったより早く建て替えになりすべての手続きを済ませた今思うと、それが全部現実になった感じです。

    画像: 好きだった洗面所の窓。右の収納の扉は開けると鏡になっていて、古さと快適さのバランスがとてもいい家でした

    好きだった洗面所の窓。右の収納の扉は開けると鏡になっていて、古さと快適さのバランスがとてもいい家でした

    “自分の暮らし”と向き合えた日々

    わたしはただ、ちゃんと暮らしたかったのです。

    引っ越す前は 職場から徒歩3分の所に住んでいて、仕事と暮らしの境目がほとんどありませんでした。暮らし方を提案する仕事をしているのに、自分は仕事ばかりしていて、それがいつもストレスだった。

    ちょうどその頃、大好きな先輩が突然亡くなって、このままじゃいけない、と強く思ったことも背中を押されたきっかけだったのかなと思います。

    画像: “自分の暮らし”と向き合えた日々

    通勤時間ができて、朝ごはんを食べて出かけるようになった。帰宅する余力を残して仕事を終わらせるようになった。そんなところからはじまって、コロナ禍で立ち止まることができて、その中ではじめて自分の暮らしと向き合ったように感じています。

    これまでずっと仕事を優先させてきたけれど、自分がいなくても回るように仕事を組み立てなおして、生活に取り組んだ。あの時間がなかったら、今自分はどうなっていただろう、と思います。

    画像1: 撮影/清永洋

    撮影/清永洋

    建て替えの話が決まったのは2022年の秋。階段のみの5階建て、ご高齢の世帯が多かったからか思ったより早く話が進みました。2年後に出なくてはいけない。移住先探しがぐっと現実味を帯びてきました。そのあとのことはこちらに書いてきた通りです。

    引っ越しは、“整理”と“選択”のためのよい機会

    現在、2拠点への引っ越しの70%くらいが終わったところでしょうか。

    ものすごーーーーーーく、大変でした。暮らしが立ち上がる前に荷物を完璧に仕分けできるわけもなく、今も行き来するたびにいろいろものを移動させています。

    ただ、自分の現在地を再確認したり、暮らしを整理するのに、引っ越しはとてもいい契機になるな、と思います。

    梱包など便利なサービスにはとても助けられたけれど、何を持ってどう暮らすか、選ぶことは自分にしかできない。そしてこの選ぶことがとても大切なように感じています。

    画像2: 撮影/清永洋

    撮影/清永洋

    今回はじめて家を作ったことで、これまで住んでいた東京の家がとてもいい家だったな、ということもあらためてよくわかりました。日当たり、風通し、あたたかくて結露もなく、動線も収納も過不足がなくて。

    今はもうない、暮らすことの大切さを教えてもらった家。暮らしが人を作るから、どんな家に住むかはとても大切だと、つくづく思う今日この頃です。



    画像: 撮影/伊藤徹也

    撮影/伊藤徹也

    藤原 奈緒(ふじわら・なお)
    料理家、エッセイスト。“料理は自分の手で自分を幸せにできるツール”という考えのもと、商品開発やディレクション、レシピ提案、教室などを手がける。「あたらしい日常料理 ふじわら」主宰。考案したびん詰め調味料が話題となり、さまざまな媒体で紹介される。共著に「機嫌よくいられる台所」(家の光協会)がある。
    インスタグラム:@nichijyoryori_fujiwara
    webサイト:https://nichijyoryori.com/

    家庭のごはんをおいしく、手軽に。「ふじわらのおいしいびん詰め」シリーズは、オンラインストアと実店舗・全国の取扱店にて販売中。https://fujiwara.shop/


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