(『天然生活』2023年7月号掲載)
地域の歴史、生活文化である手紡ぎの技を生かしたい
大分県で一村一品運動が始まった数年後、岩泉町も地域おこし産業として、何をやったらいいかという議論が役場で行われ、岩泉の産物、毛糸はどうかという声が上がりますが、「いまの時代、毛糸を着る人はいない」と9割が反対。

杏や梅、りんごなど果樹農家が剪定した枝をもらって染料に使う。枝を小さくきざみ、水から煮出して羊毛を染める
それでもとにかくやってみようと草木染めの手紡ぎ毛糸の講習会が開かれ、家業に忙しい工藤さんにも町から声がかかり、参加したのです。
30人ほどの女性が集まり、講習会で顔を合わせるうちに仲良くなり、この地域の歴史でもある女の手仕事を伝えたいと昭和60年スピンクラフト岩泉を工藤さんは代表となって設立します。
みんなで野山を歩いて花や実を集め、染色して糸を紡ぎますが、商品として売るものをつくるためにはたいへんな厳しさがありました。

黄色の毛は桜の枝で染めたもの
「経験ある先輩方から仕事を教えてもらい、その技を自分たちのものにするまでには多くの時間と労力が必要でした。無理、無理といいながらもできたのは、先輩方の力があってこそでした」

緑色の毛は桜で染めたあと、さらに藍で染めた。羊によって毛の染まり方が異なる
売ろう、売ろうとする毛糸ではなく、よい毛糸をつくれば欲しいという人がきっと現れると気持ちを切り替えたところ、翌年、盛岡で展示会を開いて販売すると完売。

原毛を洗うときは脂や汚れを落とすのに大量の湯が必要になり、かつて使っていた竈(かまど)が大活躍
「自給自足の時代のものが、その時代に受けたというか、皆さんの興味もあったんでしょうね」
以後、盛岡での展示会は毎年秋に恒例となりいまもずっと開催されています。
スピンクラフト岩泉
代表・工藤厚子
住所:岩手県下閉伊郡岩泉町袰綿字本町40
電話:0194-25-4006
<写真/落合由利子 構成・文/水野恵美子>
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです