(『天然生活』2024年5月号掲載)
人に与えられた役割に収まりきれず

神秘的な雰囲気も醸す山奥にひっそり佇む「ゆむたファーム」
やってみたい! そうすぐに思ったものの、夫の雄治朗さんもまた、奇しくも挑戦したいことがありました。
「農業を始めたいっていうんです。まずは愛媛に研修に行って、そのあと移住して養鶏をすると。途中で諦めてくれないかなと願ってたんですけど、諦めなかったですね」
見つけてきた農地は夫の地元、福岡県うきは市の山奥にある湯牟田という地域。
「福岡の中心から車で1時間くらい、といわれていたので、また仕事をすればいい。通勤圏内だと思っていて。でも来てみたら全然。やられた〜となりました」
29歳で移住、夫の仕事を手伝いながら、33歳で長男を、36歳で次男を出産。そのまま「農家の嫁と2児の母」として落ち着くかと思いきや、そう簡単には収まりません。

風通しのいい平飼いの鶏が卵を産み、糞は発酵させ堆肥として畑にまき込み、育った野菜はそのまま鶏の餌に、そんな循環型の自然卵養鶏が特徴

健康的な色あいと味わいで、地元のシェフや料理家などから絶大な信頼を得ている。基本は夫の雄治朗さんが舵を取り、あきこさんはときどきサポートをする程度だとか
「自分なりに主体的に働きたいなあと思って。あとは収入面も考えました。夫には働けといわれないけれど、私が勝手に負い目を感じちゃうかもしれない。シビアな話、実家はだれもお墓を継がないので、墓じまい、家じまいの話も出てくると思うんです。そういうときのためにも、何かしらのかたちで働いていたいと」
地域でできる仕事として、うきは市男女共同参画センターの非常勤職員として週4〜5日働きながら、子どもの学校のPTA役員としても活動。これが、ひとつのきっかけに。
「それまで、給食費は手渡しで集めていたんです。しかも平日の昼間に、JAの窓口まで毎月届けなきゃいけなくて。フルタイムで働いている人がほとんどなので、そのために中休みを取ったり、ずらしたり。みんなモヤモヤして困っていたんですけど、親世代からそうしていたから、変えようという動きにならなかったんですね」
そこで高木さんはPTA役員という立場から、口座振替にするよう提案し、実現への道が開かれたのです。
「このとき、いえるポジションにいるというのは大事なんだなって、つくづく思いましたね」
<撮影/目野つぐみ 取材・文/山村光春>
高木あきこ(たかき・あきこ)
うきは市議会議員。約20年前に夫の故郷・浮羽町(現・うきは市)に移住。義母、夫、子どもとの三世代同居。2015年3月まで「九州ちくご元気計画」スタッフ、同年7月から2021年3月まで「うきは市男女共同参画センター」所長として活動。2022年にうきは市議に初当選。暮らす人のモヤモヤを解決し、子どもたちが戻りたい町にしたいと活動中。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです