• 目が見えなくなっても人生を楽しむことはできる──。自分の足元に転がっている幸せを好奇心で見つけていくことが人生を楽しくしてくれると、石井健介さんは語ります。一夜にして視力を失って9年。初のエッセイ本『見えない世界で見えてきたこと』(光文社)を刊行した石井さんの前向きな人生との向き合い方からは、日々の悩みや迷いに押しつぶされずに自分らしく生きるヒントを学べそうです。

    好きなことをあきらめたくない。ファッションも新しい楽しみ方で

    ──石井さんはもともとアパレルで仕事をしていたこともあるほど、ファッションが好きだそうですね。目が見えなくなったことで、ファッションの楽しみ方も変わりましたか

    以前からTシャツは100枚以上、靴も40足以上持っていて、目が見えるときに買ったものは全部頭に入っています。見えなくなって、ファッションへのこだわりもなくなるかもと思いましたが、全然そんなことはありませんでした(笑)。

    洋服が好きすぎて、畳んでいるだけでも楽しいんです。

    画像: ──石井さんはもともとアパレルで仕事をしていたこともあるほど、ファッションが好きだそうですね。目が見えなくなったことで、ファッションの楽しみ方も変わりましたか

    リハビリと称して、自宅の近くにある大型の古着ショップに通いつめたりもしています。目のすぐ近くまで持ってくれば、色や小さなダメージはわからなくても、プリントの感じはぼんやりわかります。だんだん触った感じで、それがいいものかどうかも見分けられるようになりました。今では、そうやって好きな服を見つけるのが楽しみのひとつです。

    昔は派手な服は、憧れはあっても恥ずかしさが先に立っていましたが、今はそういう派手な色や柄も楽しんで着られるようになりましたね。改めて、自分は「おしゃれをあきらめたくなかったんだな」と感じます。

    画像: 「この花柄の派手なパーカーは待ち合わせの際の目印にもなります」と石井さん

    「この花柄の派手なパーカーは待ち合わせの際の目印にもなります」と石井さん

    見えない自分をすべて肯定。今は自分が大好き

    ──見えない世界にいるからこそ、いろいろなものが見えてきた。まさに石井さんの著書のタイトル『見えない世界で見えてきたこと』の通りですね

    見えていたときは、自分の外にばかり目をむけていたのかもしれません。見えなくなって、自分の内側に目を向けざるを得なくなりました。それまであえて見ないようにしていたことも、俯瞰して見えるようになったと思います。「何のためにこうしたいんだっけ?」「自分はどう思っているんだっけ?」と。

    画像: 著書の表紙には満月のように青く光る箔押しが。「この加工のおかげで、本棚で手に取ると自分の本だとわかります」

    著書の表紙には満月のように青く光る箔押しが。「この加工のおかげで、本棚で手に取ると自分の本だとわかります」

    そうしたら、「こうありたい」と思っている自分に自然に近づいていった感じです。今の自分が大好きだし、自分のすべてを肯定できるようになりました。

    自分がプラスのバイブスを出していれば、素敵な仲間が集まってきて、それがよい循環を生み出していく。うれしい、楽しい、大好き。そこからブレなければ、絶対に大丈夫。今はそんな自信があります。

    だからといって、僕は別に視覚障がい者のすべてを代表しているわけではありません。ただ、自分の好きを追求しながら、いろいろな人が人生を楽しめる世の中にしていきたい

    幸い大勢の方に注目していただき、仕事のチャンスも広がっています。そういう中で、自分が発信できることをしていくという責任はしっかり果たしていきたいですね。

    ※ 前編では、突然の失明で絶望の淵に突き落とされた石井さんが、“見えない世界”で見つけた「新しい家族のかたち」についてお届けしてします。

    〈撮影/星 亘 取材・文/工藤千秋 撮影協力/BAR MEIJIU〉



    石井健介(いしい・けんすけ)
    ブラインドコミュニケーター

    1979年生まれ。アパレルやインテリア業界を経てフリーランスの営業・PRとして活動。2016年の4月、一夜にして視力を失うも、軽やかにしなやかに社会復帰。ダイアログ・イン・ザ・ダークでの勤務を経て、2021年からブラインドコミュニケーターとしての活動をスタート。さまざまな領域で活躍している。
    X:@madhatter_ken

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    見えない世界で見えてきたこと

    『見えない世界で見えてきたこと 』|石井健介(著)

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    あの日の朝、僕は目が覚めたら目が見えなくなっていた。
    36歳にして視力を失った著者による、まるで小説のような自伝エッセイ

    視力を失った僕は今、青く澄んだ闇の中に生きている。見えていたころには見えなかった、目には見えない大切なものが見えてきた。声を出して泣ききることも、人に頼って助けを求めることも、難しいことではなかったんだ。僕は生きることがずっと楽になった。



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