(『77歳 365日の紡ぎ方: 益子暮らし、元カフェ店主 信田良枝さんの居場所』より)
好きなものを部屋の情景にする
70代になると、終活の一環でものを整理する人が増えてきます。なかには“使わないから”という理由で、好きなものを泣く泣く手放す人も……。
信田さんにその話をすると、「捨てるようなものをなぜ買うの?」と一刀両断。ちょっとかわいいものを手が届くからと買うのではなく、本当に好きなものを少し頑張って買う。そういうものはずっと好きで、大切にするもの。
「私が持っているものは、好きか必要のどちらか。捨てるものはありません」

家にある家具や服は、自分の眼鏡にかなった好きなものばかり。
きれいな空き箱やクッキー缶、使い終えたカレンダーや包装紙などなど……も捨てません。“カタチ”が好きな数字や文字まで、おとりおきの対象です。
好きな入れ物に“好き”な紙片をたくさん集めたら、今度は「何に使おうかな」と贅沢な悩みを楽しみます。
「リサイクル? いえ、好きだからそばに置いておきたいし、眺めていたいだけ」
「だから、ひらめいた順にペタペタコラージュ。味気のない団扇(うちわ)やバインダーが、見違えたように素敵になります。本に巻いてブックカバーにすることも」

直感的に“好き”と思ったカレンダーや包装紙はカットしてストック。紙片で団扇など身近なものをコラージュしています。文庫本のカバーにも
またたとえば、写真家の個展や画廊から届くポストカード。気に入ったものはベンチ後ろの壁に飾って、楽しいコーナーに。知人のフォトグラファーからもらった作品も一緒に飾っています。
好きだけど着なくなったファッションアイテムもインテリアに生かします。
20代に買ったショールをベンチのブランケットや敷物にしたり、鮮やかなブルーのストールを西日が差す窓辺に日除けとして吊るしたり。

昔エスニック雑貨店で買ったショールを座面に敷いています。黒のクッションは、ジャケットの余り布でつくったもの。手編みのショールをブランケット代わりに
ほかにも、もう使わなくなったフェルトの衿巻きを、色がきれいだからとタペストリーに。冬のインテリアとして楽しみます。

リビングの細い壁には、作家物のフェルトの衿巻き。左の小棚に飾った水鳥のオブジェもいい味
「好きだけど着なくなった服は、ハギレにしてとっておいて、ドイリーやコースターづくりに役立てては?」
信田さんのアトリエでは、服づくりで出た布きれからテーブルライナーや鍋つかみなど、かわいい小物が次々と生まれていました。

ハギレでつくったドイリー。「不器用でも、それがいい味に」

庭で摘んだヤブランを小さな一輪挿しに合わせて。色味の合うドイリーで統一感を
部屋の模様替えも花を飾るのも、あれこれ試してしっくりきたときは、一日じゅう気分がいいという信田さん。
「『おっ、いいんじゃない!』『あら、素敵じゃない!』と自分を喜ばせる。居心地のよい空間づくりは、結局どれだけ『自己満足できるか』に尽きると思います」
本記事は『77歳 365日の紡ぎ方: 益子暮らし、元カフェ店主 信田良枝さんの居場所』(主婦と生活社)からの抜粋です
〈撮影/林ひろし〉
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77歳、益子暮らし、元カフェ店主信田良枝さんの居場所
食べること、着ること、そして暮らすこと。益子暮らし、元カフェ店主・信田良枝さんの“心地よさ”の秘訣や考え方をご紹介した1冊。信田さんの言葉は、ひとつひとつ核心を突いていて、日々を楽しむヒントがたくさん。スコーン、キーマカレー、りんごジャムのレシピや、ドイリー、押し花アート、腹筋・殿筋運動のやり方なども掲載!
信田良枝(のぶた・よしえ)
1947年東京都生まれ。益子焼で有名な栃木県益子町在住。26歳で結婚し、33歳で益子に移住。一男一女を授かる。陶芸家の夫を支えながら、子どもたちを育てあげた後、55歳でカフェ「ごはん屋ギャラリー『猫車』」をオープン。素敵な器とおいしい料理、癒やしの空間で人気店に。69歳でカフェを閉め、70歳でひとり暮らしを開始。自分のためにつくった服が評判を呼び、年数回、自宅で個展を開いている。
インスタグラム:@minnano_coromo