(『暮らしのまんなか』vol.41より)
ふたりで料理をつくって、夕暮れからちょっと一杯
「ねばならぬ」から解放された毎日を

取材時は春先だったので、とれたてのたけのこのごはんを。そのほか、湯むきしたミニトマトとわかめを麺つゆと酢であえた酢のものや、ポテトサラダも食卓へ。ぶりの刺身は、酢漬けにした大根のツマと一緒に味わうのが山中家のこだわり
キッチンの小さな鍋で湯を沸かし、枝付きのミニトマトをポイ。「こうして湯むきをすると、マリネ液がよくしみ込むんです」と山中阿美子さんが教えてくれました。横では夫の康廣さんが、ぶりの刺し身を薄切りにして前菜をつくっています。
康廣さんが自分でつくったという器に盛りつけて食卓に運んだら、日本酒で乾杯。こうやって、毎日「居酒屋あみ」の開店準備をするために、夫婦でキッチンに立つようになったのは、第一線を退き、仕事の忙しさからも解放された10年ほど前からでした。

阿美子さんがデザインしたロングセラーのカトラリー「AMI」のシリーズ。スプーンはやや浅めで、口にもなじみやすい
旅の思い出や、庭で育つ木々が、明日を迎える力になります
リビングには、天井までの本棚があり、こけしや小さな人形がいっぱい。旅行好きのおふたりが、少しずつ集めてきた民芸品なのだそう。

壁面の大きな棚に飾られているのは、思い出が詰まった人形やオブジェ。民芸品の
数だけ思い出がある
いまは現役から退いて、新たに何かを生み出すことも、旅に出かけることもなくなったけれど、夢中で仕事をし、子どもたちのためにごはんをつくり、ときどき旅に出て……と笑ったり、泣いたりした日々はこの家の中に確かに蓄積されています。
夕暮れ時、山中家の「居酒屋あみ」で味わうのは、おいしいおかずやお酒とともに、ふたりでこつこつと積み重ねてきた時間そのものなのかもしれません。
建築家の夫とともに働きながら子育てを
一日一日を積み重ねてきたからこそ、「何でもないいま」の喜びを感じられるようになりました

リビング。手前のスツールは、康廣さん、阿美子さん、曾原厚之助氏がデザインし、「天童木工」が製作した「マッシュルームスツール」。パリ装飾美術館のパーマネントコレクションにも選定された
<撮影/山川修一 取材・文/一田憲子>
山中康廣さん、阿美子さん(やまなか・やすひろ、あみこ)
康廣さんは、会社勤務を経て独立。「山中康廣建築設計事務所」を主宰。阿美子さんは、東京藝術大学美術学部を経て、「YAMANAKA DESIGIN OFFICE」を設立。プロダクトの企画、開発を担当。カ
トラリー「AMI」シリーズはロングセラー。現在はリタイアし、ふたりの生活を満喫中。
https://www.ay-yamanaka.com/
<訪ねた人>
一田憲子(いちだ・のりこ)
『暮らしのおへそ』(主婦と生活社)をはじめ、雑誌や書籍などの企画、編集、執筆を手がける。著書に『おしゃれの制服化』(SBクリエイティブ)など多数。http://ichidanoriko.com/
※記事中の情報は『暮らしのまんなかvol.41』本誌掲載時のものです
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『暮らしのまんなかNo.41』では、山中康廣さん、阿美子さんの暮らしを6pで紹介しています。
『No.41』のテーマは、「明日のために、暮らしを更新しつづける」こと。世の中の流れや、家族の成長によって、いままで大事にしていたものが、くるっとひっくりかえる。そんな経験をしたことはありませんか? 当たり前だったことが、当たり前でなくなるとき、戸惑ったり、不安になったりするものです。でもきっとそれは新しい扉を見つける大きなチャンス。明日からは何を「一番大事」にしていこうか。周囲の変化に流れさない、私だけの「ものさし」を持つことができれば、ぶれずに凛と生きていけるはずです。
第1章「新しい暮らしの『ものさし』を見つける」
第2章「家事の工夫で毎日を整える」
第3章「わが家らしい時間のつくり方」