(『天然生活』2025年4月号掲載)
ミサオさん流こしあんのつくり方を受け継いで
「いまの自分があるのは、このたいした笹に恵まれたからなんだなって思うよ」
そう語る桑田ミサオさんの笹餅は、青く清々しい香りがほんのり漂います。
津軽・金木(かなぎ)に伝わる笹餅は、時間がたつと笹が茶色くなり餅はかたくなりますが、ミサオさんは青さとやわらかさを保つ笹餅を目指し、5年の試行錯誤を重ねました。
完成後も改良を続け、その味は評判を呼び、店頭に並べばすぐに売り切れるほどに。
95歳で引退したいまは、姪の娘・美子さんが「水1滴で違う」との教えを受け継いでいます。

「私の笹餅の味に一番近いよ」とミサオさんから言われ、すごくうれしかったと小嶋美子さん。笹餅は金木観光物産館、地元のスーパーストアで販売中
以前、工房に見学に来た和菓子職人がミサオさんのこしあんのつくり方に驚き「今日ほど勉強になったことはありません」と感想をもらしたといいます。
というのは通常、こしあんは舌触りをよくするために小豆の皮を除きますが、ミサオさんは皮を捨てずに全部、使いきるのです。

地元産の小豆でつくったこしあん。サラサラと口の中で溶け、すうーっとなくなっていく、品のいい味わい。時間があるときに大量につくり、冷凍保存をしておく
大切に育てた小豆、その皮を捨ててしまうのはもったいないという気持ちからでしたが、皮の部分に含まれる鉄分などの貴重な栄養素があることを後から教えられ、栄養的にも優れていることに驚いたそうです。
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<撮影/衛藤キヨコ 構成・文/水野恵美子>
桑田ミサオ(くわた・みさお)
1927年青森県・津軽生まれ。保育園の用務員を退職後、60歳から農協の無人販売所で販売する笹餅をつくり始める。山に分け入って笹の葉を採り、材料のこしあんから全て手づくりする笹餅は、またたくまにおいしいと評判となり、75歳で本格的に起業。79歳で津軽鉄道「ストーブ列車」に乗りながら、車内販売を始めると、「ミサオばあちゃんの笹餅」として注目を集める。2020年には、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に、「たった一人で年間5万個の笹餅を作り続ける職人」として取り上げられる。平成22年度農山漁村女性・シニア活動表彰 農林水産大臣賞受賞。令和3年春の勲章 旭日単光章受賞。95歳で笹餅づくりを引退する。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです