(『天然生活』2024年9月号掲載)
夫婦で協力し合って絵本づくり
万里子さんと弘さんの出会いは、お見合いでした。それまで弘さんには「絵心がまったくなかった」そうですが、絵が好きだという万里子さんの気をひきたくて、共通の話題をもつためにこっそり油絵を習い始めたとか。
結婚後も、万里子さんはシルクスクリーンを、弘さんは油絵を、仕事帰りに習っていたので「夕飯は別々」の新婚生活でした。家庭をもったからといって、やりたいことはがまんせず、協力し合って楽しむふたり。

万里子さんの画材。思いついたらサッと描けるように、パステルやパレットに出した水彩絵の具を使うことが多い
万里子さんが妊娠中に手づくり絵本の講座に通い始めると、弘さんも仕事の休みを使って絵本づくりを手伝います。穂高さんと2歳違いで長女のはる香さんが誕生し、町田家はますますにぎやかに。
物心つく前から両親の絵本に囲まれて育った子どもたちも、お絵描きの延長で絵本をつくっていたそうです。娘のはる香さんはこういいます。
「わが家では、何かにつけて家族で絵本をつくるのが当たり前だったから、ほかのお家でも普通に絵本をつくっていると思っていたんです。そうじゃないと知ったときに、母と父がしてくれたことのすごさを初めて感じました」

リビングの棚には、万里子さんが10代のころから読んできた絵本や、絵を描くための資料などが並んでいる

牛乳パックの面を生かした立体絵本。万里子さんは仕事復帰後、手づくり絵本を授業にも役立てた
家族の転機が娘の作文に
仲むつまじい親子にも、成長の過程で親離れ、子離れのタイミングは訪れます。はる香さんが中学生になったころ、教師を辞めて家庭に入っていた万里子さんが、15年ぶりに仕事復帰。「お母さんっ子」のはる香さんは、万里子さんが家にいない生活に戸惑い、そのさびしさを、先頭きって万里子さんの仕事を応援していた弘さんにぶつけました。
思春期の娘と父親は、うまくいかないほうが正常運転とはいえ、弘さんは悩んだといいます。「もう娘には嫌われたのかなあと思いましたね。だから、これを読んで感激したんです」
と、見せてくれたのは、はる香さんが当時の気持ちを書いた学生時代の作文。父に八つ当たりした気まずさ、家事は家族で助け合ってするものだと気づかせてくれた父への思い、父と母のように二人三脚の夫妻が憧れだという宣言まで、揺れ動くままに言葉が綴られた原稿用紙は、弘さんの宝物です。

ある時、何気なくタンスを開けたら、シワシワのTシャツが目に入った。おそらく父が畳んだと思われるものだった。その時私は、自分でも何故だかわからぬほど、苛立ちを感じた。荒々しくTシャツを引っ張り出すと、床にたたきつけた。
「人が畳んだものを、どうしてそういうことするんだ」テレビを見ていたはずの父が、いつのまにかこっちの方を見ていた。悪かったと思っている。とっても。でも、勝手に畳んだ父が悪いんだ――その気持ちの方が大きかった。その場を逃げるかのように、部屋に戻った。
(はる香さんの作文『父が「主夫」になった日』より抜粋)
〈撮影/星 亘 構成・文/石川理恵〉
まちだファミリー
母・万里子さんは元小学校教師。長男の穂高さん、長女のはる香さんの育児中は専業主婦になり、手づくり絵本を通じて地域活動に励んだのち、教師に仕事復帰。現在は病気療養中。父・弘さんは元高校教師(化学)。2016年より「ヒロシとマリコの手づくり絵本展」を開催し、縁のある場所を巡回。インスタグラム:
@mahiro_publishing
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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万里子さんと弘さんの手づくり絵本展が開催!
会場では手づくり絵本を手に取ってご覧いただけます。
家族の思い出がつまった、世界に1冊の絵本の魅力をお楽しみください。
「ヒロシとマリコの手づくり絵本展 in Toshima city at 豊島区立熊谷守一美術館」
● 開催日時:2025年10月28日(火)〜11月2日(日)
10時30分〜17時30分(最終入場17時まで)
※最終日は16時閉場
● 観覧料:無料(常設展示は有料)
● 会場:豊島区立熊谷守一美術館3階ギャラリー
https://kumagai-morikazu.jp/
詳しくはこちらから
https://kumagai-morikazu.jp/exhibition/rJfQ56fk
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