(『天然生活』2024年9月号掲載)
過ぎていく毎日は、かけがえのないものだから

町田家の母・万里子さん、父・弘さん、長女・はる香さん。長男・穂高さんは関西に。それぞれの手には自作の絵本が。はる香さんのワンピースは「祖母の手縫い」という手仕事好き一家
台所で料理をしていたら、娘が野菜の切り口を見て「きれい」とつぶやいたこと。息子がお気に入りの布をずっと握り締めていたこと。飼っていた金魚が水槽から飛び出したこと。
ささやかな日常のひとこまから物語の種を見つけては、絵本を手づくりしてきた町田さん家族。母・万里子さんが中心となり、1970年代より現在まで約90冊の絵本を生み出しています。
「絵本を出版するのはよほどの努力や才能、運に恵まれないとできないけれど、手づくり絵本ならば、思いがあればだれにでもできます。売りものじゃないから、自分の好きなようにつくればいいんですよ」と万里子さん。
子育ての悩みも喜びも絵本に
もともと絵本好きで、絵を描くことも大好き。弘さんと結婚し、やがて長男の穂高さんを授かると、地域の講座に通って製本などを覚えたそうです。
「わが子に初めて見せるのは、自分の手づくりした絵本がいいと思ったんです。でも、いざでき上がったのは、赤ちゃんには向かないクイズ絵本でした。私はそれまで小学校の教師をしていたので、知らぬ間に自分の教え子たちが喜ぶお話を考えていたみたい。これから生まれてくる子のことは、まだイメージできなかったのでしょうね」

生後2カ月の穂高さんに、手づくり絵本を初めて見せたときの写真。万里子さんの創作の原点
手づくり絵本には、自分の体験が色濃く写し出されていくもの。出産後、万里子さんはいよいよわが子を主人公に、絵本をつくりました。
一冊は、赤ん坊の穂高さんといつも一緒にいた、ぬいぐるみのぴよよが相棒の物語。わが子がぐずって泣きやまなかったり、離乳食をあまり食べなかったり、初めての育児につきものの戸惑いを、ぴよよの存在がなぐさめてくれるようなお話です。

ぴよよはこのあと何冊かシリーズ化され、成長する穂高さんを見守る存在に
もう一冊は、穂高さんが宇宙船に乗って世界中を旅する物語。壮大なストーリーには、育児に専念していた万里子さんの思いが投影されています。
「私は旅行が大好きだけれど、赤ちゃんとの生活が始まり、人生で初めてどこにも行けない時期を過ごしていました。だからせめて絵本の中で、行きたい場所へ思い切り出かけたんです」
育児中のままならない出来事も、絵本をつくろうとすると、視点が変わって客観的に捉えられるように。
よくある子ども同士の「おもちゃの取り合い」も、絵本の種になりました。ケンカが続いたため、親がおもちゃを片づけたところ、テーブルや椅子を電車に見立てて仲良く遊び出した……という実話から、物語を紡いだそうです。
「何もないところから遊びをつくり出す子どものすごさを描きたかったんです。子どもって、いくらケンカしてもやっぱり友達と遊びたいんですね」
〈撮影/星 亘 構成・文/石川理恵〉
まちだファミリー
母・万里子さんは元小学校教師。長男の穂高さん、長女のはる香さんの育児中は専業主婦になり、手づくり絵本を通じて地域活動に励んだのち、教師に仕事復帰。現在は病気療養中。父・弘さんは元高校教師(化学)。2016年より「ヒロシとマリコの手づくり絵本展」を開催し、縁のある場所を巡回。インスタグラム:
@mahiro_publishing
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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万里子さんと弘さんの手づくり絵本展が開催!
会場では手づくり絵本を手に取ってご覧いただけます。
家族の思い出がつまった、世界に1冊の絵本の魅力をお楽しみください。
「ヒロシとマリコの手づくり絵本展 in Toshima city at 豊島区立熊谷守一美術館」
● 開催日時:2025年10月28日(火)〜11月2日(日)
10時30分〜17時30分(最終入場17時まで)
※最終日は16時閉場
● 観覧料:無料(常設展示は有料)
● 会場:豊島区立熊谷守一美術館3階ギャラリー
https://kumagai-morikazu.jp/
詳しくはこちらから
https://kumagai-morikazu.jp/exhibition/rJfQ56fk
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