(『天然生活』2020年11月号掲載)
生活の延長線上にある「仕込みもの」
「海に囲まれた済州島は自然が豊かで、なんでもおいしいの」
散歩の途中に野草やきのこを見つけたり、潮が引いたら、岩場であわびを見つけたり。料理上手のお母さんと台所に立ち、包丁を握ったのも懐かしい思い出です。
自然に恵まれた済州島で、食べ物が実り、ていねいに料理され、人々の口に入るまでをつぶさに感じて育った子ども時代。それこそが現在の映林さんの支えとなっています。

「このキムチはあえるだけ。すぐに食べられるけど、少しずつ食べて変化を感じるのも楽しい」と映林さん。
自然とともに生き、季節の移ろいを感じ、実りの喜びを知る。
その生活の延長にあるのが、季節ごとに欠かさない「仕込みもの」です。
みずからの手を動かし、旬の食材の栄養分と滋味深いおいしさを閉じ込めて、大切な人と分かち合う。毎年繰り返しつくっても少しの違いが生まれ、それがまたいとおしいのだそうです。
仕込みものを通じて四季の移ろいを感じていると、おのずと心と体の調子にも敏感になります。
「秋は、夏の疲れをいやして冬への備えをします。まずは一杯のお茶を大切に飲んでほっとして。そして、新物の作物に感謝しながら仕込んでいきましょう」
常に細やかな下準備を欠かさず「料理は下ごしらえが8割」と語る映林さん。
食べる人のことを思い、心を込める。仕込みものは、心までも満たしてくれるのです。
李映林(り・えいりん)
韓国・済州島生まれ。娘のコウ静子、息子のコウケンテツとともに料理家として活躍。近著に『李映林、季節の仕込みもの』(グラフィック社)。



