赤い屋根の向こうに、バターの香り。
山形「パティスリーコウシロウ」で出会った、やさしい時間
山形へ行くと、いつもは駅の周辺ばかりを歩いてしまう。
けれど今回はレンタカーを借りて、ずっと訪ねてみたかったお店へ。
昔、一緒に働いていていまでも仲良しの、北杜市の洋菓子店「グート・デ・スリーズ」の川村あゆみさん。
彼女のご実家が、この「パティスリーコウシロウ」だと聞いてから、ずっと気になっていた。

赤い瓦屋根と木組みの外観は、まるでスイスの街並みに溶け込むよう。
扉を開けるとふわりと漂ってくるのは、焼きたてのバターの香り。
もうその瞬間に、ここでの時間が特別なものになるとわかる。
クラシックでやさしい味、50年の歴史
オーナーシェフの沼澤幸四郎さんは、東京・代官山の老舗フランス料理店「小川軒」で修業を積んだ方。
並んだケーキのどれもが、クラシックで、正統で、そしてやさしい。

モンブランは栗の香りがほっくりと広がり、オペラはビターなのにどこか包み込むような口溶け。
焼きチーズケーキは、チーズがとろりと流れて、思わずワインが欲しくなるほど。
どれも甘さが控えめで、軽やか。
バターはカルピスバターのみを使用し、素材の力を信じ、誠実に向き合っていることが伝わってくる。

焼き菓子もまた素朴で、小麦とバターと砂糖の香りが舌にしみる。
流行を追うことよりも、長く愛される味を積み重ねてきた静かな自信がある。
「この土地で50年、洋菓子店を続けてこられたこと」
その意味を、沼澤さんの穏やかな口調でうかがっているうちに、気づけば1時間以上も経っていた。

また訪れたくなる、記憶に残るお菓子屋さん
菓子づくりは、素材や技術だけではなく、その土地の空気や人の気持ちと一緒に育まれていくもの。
そんな当たり前のことを、改めて思い出させてくれる時間だった。
おみやげには、刻んだマカダミアナッツとクッキー生地、ミルクチョコレートが三位一体になった焼き菓子を。
カリッとした歯ざわりのあとに広がるやさしい甘さが、そのまま沼澤さんの人柄のよう。

通販はなく、買えるのはお店だけ。
だからこそ、また山形へ行くときには必ず立ち寄りたい。
香りも味も、そして人の言葉も、記憶に残るお菓子屋さんです。
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これ一冊あれば、人気のせいろの魅力と料理を堪能できる!
天然生活で人気料理家、飛田和緒さん、真藤舞衣子さん、長谷川あかりさんの3名に、せいろのある暮らしと、せいろを使ったやさしいレシピを紹介します。
本書では、レシピだけではなく、真藤舞衣子さんが、愛用のせいろ職人の工房を訪ねて、せいろの魅力を紹介。
台所料理専門店・キッチンパラダイスの、田中文さんは、せいろの基本的な使い方、種類など、専門的な知識を教えていただきます。
さまざまな角度からせいろの魅力を伝える一冊になっています。

真藤舞衣子(しんどう・まいこ)
料理家。発酵研究家。会社勤務を経て、1年間京都の禅寺で生活。フランスへ料理留学後、料理教室を主宰するほか、雑誌や書籍で活躍。著書に『つくりおき発酵野菜のアレンジごはん』(主婦と生活社)、『サバの味噌煮は、ワインがすすむ』(日本経済新聞出版、小泉武夫氏と共著)など。
インスタグラム@maikodeluxe







