不登校の友達に本を贈りたい。その一言から生まれたドラマ
森田さんの著書『書店員は見た! 本屋さんで起こる小さなドラマ』には、日々、お店の中で生まれる数々の出会いと物語が、やわらかな筆致で綴られています。
なぜ森田さんのもとには、こんなにも多くの人と本との巡り合わせが訪れるのでしょうか。

「棚の前で何かを探しているお客様がいると、できるだけ声をかけるようにしているんです。これは多くの書店員さんがされていることだと思うんですが、私はそこから自分のおすすめをお伝えすることもあります。そうやって顔なじみになり、毎回私のすすめた本を買いに来てくださる方もいるんですよ。
書店員の仕事というと、レジで本を販売したり、お客様の問い合わせに対応したりする姿を思い浮かべるかもしれません。でも実際は、体力勝負なんです。人気作が大量に入荷するときは、棚まで運ぶのも一苦労。ありがたいことにたくさんのお客様が来てくれる日はてんてこまいで、ぎっくり腰に悩む同僚も少なくありません。
『もう体力の限界かも……』と心が折れそうになることもありますが(笑)、それでも続けていられるのは、お客様との出会いがあり、そこに会話や物語が生まれるからかもしれません」

数多く生まれるドラマの中でも、森田さんが決して忘れることのできないエピソードがあると言います。
「よく来てくれる男子高校生がいて、その子が『不登校の幼なじみに渡したい本を探している』と相談してくれたことがあったんです。そのとき私がすすめたのが、辻村深月さんの『かがみの孤城』でした。彼はその日、上巻だけを買って帰ったのですが、後日、その友人が下巻を買いに来てくれて。それがもう本当に嬉しくて。あの瞬間は、書店員をやっていてよかったと心から思いました」
〈撮影/星 亘 取材・文/高田真莉絵〉
森田めぐみ(もりた・めぐみ)
茨城県生まれ。「くまざわ書店・昭島店」書店員。夫の転勤に伴い各地で生活を重ねる。現在は東京で家族と猫たちに囲まれながら暮らしている。著書に『書店員は見た! 本屋さんで起こる小さなドラマ』(大和書房)。





