高熱の朝に生まれた、回復のスープ
移住はさすがに大ごとだった。
2月の半ばに工事が終わって引き渡し。翌日、引っ越し屋さんにふたたび来てもらって11月末に倉庫に入れた家具や荷物を家に運んでもらった。
引っ越しのハイライトはベッドのマットレスが冬の間に何かの動物(ねずみ?)に食い破られていたこと!
そんなことを想像もしなくてけっこうなショックを受けたけれど、人間より動物が多いところにお邪魔させてもらっているのだな、と気持ちを新たにした。とりあえず床にダンボールを敷いて、布団にくるまって寝た。

引き渡しの9日後に撮影が入っていて、毎日荷物をほどいていく。
まだペンキの仕上げが終わっていなくて、朝の8時に職人さんが来る。それに合わせて日中は片付け。撮影の2日前になんとかペンキ塗りが終わり、台所もととのった。
終わりが見えてほっとしたのか、その夜高熱が出た。ペンキの何かを吸い込んだのか、千葉との気温差もあったんだろう。
よくわからないけど涙がどんどん出てくる。しばらくずっと休みがなかったのだ、よく頑張った。ほっとしたんだね。
少しだけゆっくりさせてもらい、みなさんに助けてもらいながら、撮影もなんとか終わった。終わってまた熱を出した。今度は安心して布団にもぐった。
ただ寝ているだけで、毎日ちょっとずつ回復していくから、からだってほんとうにすごい。感動した。
あまり食べられないからずっとお腹がすいていて、熱が少し下がってからは何がつくりたいか/食べたいか、ばかり考えようとするのだけど、からだは全然追いつかない。いつも感じている食欲の半分以上は脳が感じていることなのかもしれない。

翌朝起きたら、視界がクリアだった。だいぶ良くなった感じがする。よろよろと台所へ向かう。何か食べよう。そう思って、冷蔵庫にあった食材でスープをつくる。
少し酸味を感じたくて、梅干しを入れた。長芋のざらざらとゆりねのみちっとしたまるい味、きゅんとする酸味がおいしくて、ひと口ごとに元気が出る。
わたしのからだはえらい。
いつもいろんなことを味わわせてくれてほんとうにありがとう。
「長芋、ゆりね、梅干しのスープ」のつくり方

材料(1人分)
| ● 長芋 | 100g |
| ● ゆりね | 適量 |
| ● 梅干し | 大1個(塩だけで漬けたもの) |
| ● だし | 500mL |
| ● しょうゆ | 少々 |
| ● 塩 | 適量 |
つくり方
1 長芋は洗って泥を落とす。好みで皮をむき、薄くスライスする。ゆりねは洗って、外側から1枚ずつはがし、変色している部分を包丁で削る。
2 小鍋にだしをあたためて、長芋とゆりねを入れる。数分して表面が透き通ったら、梅干しを加え、しょうゆと塩で味をととのえる。
ひと口メモ
調子の悪い日の料理って人生の必須科目だと思う。スープはどんなときにも寄り添ってくれますね。ゆりねはなくても大丈夫です。新たまねぎでつくっても。

本記事は『あたらしい日常、料理』(山と溪谷社)からの抜粋です
〈撮影/邑口京一郎〉
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料理は、あなたのお守りになる。
東京から北海道と千葉へ。2拠点生活をはじめるまでの日常と料理。
疲れたときにもつくりたくなる24篇のレシピとエッセイのほか、ふじわらの人気商品「納豆辣油」の家庭用のレシピほか、たれレシピを収録しています。
藤原 奈緒(ふじわら・なお)

料理家、エッセイスト。“料理は自分の手で自分を幸せにできるツール”という考えのもと、商品開発やディレクション、レシピ提案、教室などを手がける。「あたらしい日常料理 ふじわら」主宰。考案したびん詰め調味料が話題となり、さまざまな媒体で紹介される。初の著書『あたらしい日常、料理』(山と溪谷社)が発売となる。
インスタグラム:@nichijyoryori_fujiwara
webサイト:https://nichijyoryori.com/







