(『天然生活』2025年2月号掲載)
自家製生乳100%でつくる手づくりのチーズ
チーズづくりの経験はゼロでしたが、フランス・ノルマンディーの牧場で目にしたチーズづくりの光景がよみがえってきました。
「チーズづくりはそんなに難しいものじゃないと思っていたんです。だって古代からあった保存食だから。ただ、同じ品質でつくるとなると難しい。気温によって熟成の進みが違うし、季節によっても牛乳の味は違ってくる。だから私は、安定したものはつくれませんと最初から宣言しているんです。生乳は生鮮品だから、トマトや果物のように味が変わるはずのもので、それを年間通して牛舎の中で同じエサを食べさせ、味が変わらないようにしている。そういうことを案外、みんなは知らない。牛乳やチーズは本来こういうものであるということを知ってほしいんです。私の目指すところは、もっと日常でチーズを食べられるものにしたいんです。たまの贅沢品ではなく」

手にしているチーズはグラナ(ハードチーズ)。外側に厚い皮をつくるために塩水でふき、乾燥やカビを防ぎながら熟成させていく


カマンベールは毎日ひっくり返しながら白カビをはやしていく
酪農王国のフランスでは、春のチーズは草の香りがするね、冬のチーズはコクがあって味わい深いね、と味わいの違いを楽しむといいます。
一度きりの人生を自分の手で豊かに
酪農とチーズづくりに忙しい合間、気分転換を兼ねて金子さんはケーキを焼きます。ジャムやケーキづくりの材料となる果樹を植えてある畑に案内してもらうと、キウイフルーツやいちじくが実をつけていました。
「ここで牧場を始めたころから苗木を少しずつ植えはじめました」

キウイフルーツを収穫中。荒れ地だった場所を金子さんがツルハシを使って切り拓いたという畑にはいちじく、あんず、ラ・フランス、ル・レクチエ、ブルーベリー、いちごなど、ケーキづくりの材料になる果樹をいろいろと植えている。野菜は手をかけなくても育つじゃがいも、にんにくを栽培

キウイフルーツ。牧場を始めた年に苗木を見つけて植えたものがぐんぐん成長し、毎年、たくさんの実をつける。晩秋が収穫期

こちらはルバーブの収穫
市場にあまり出回らないブラックベリーの木もあるそうで、食料というより楽しみのための畑です。
「最近感じているのは、自分の手で人生をつくっているなと。ちょっとお金がたまったら屋根をつくったり、ソーラーライトを買って夜にその明かりを見て楽しんだり、だんだん好きなものに囲まれていくことの充実感。牛の世話とチーズづくりで日々忙しいですけれど、今日は体がしんどいから、今日はゆっくりしようとか、雨が降っているときは外の仕事は休もうとか、自分のさじ加減でやっていけるというのもいいなと思うし。動物の世話は苦にならないのでずっと飼って生きていきたいです。牧場名『Mt.Fuji Craft! Farm』は昔観た映画のセリフ、『Craft Life=人生をつくろう』からとりました。一度きりの人生を自分の手で豊かにしようと牧場をつくり、チーズをつくっていきたいんです」
〈撮影/星 亘 構成・文/水野恵美子〉
金子さおり(かねこ・さおり)

元新薬開発の技術者。山梨県富士ヶ嶺地区の酪農家の下で3年働き、2020年46歳で「Mt.Fuji Craft! Farm」を立ち上げる。
https://www.mtfujicraftfarm.com/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです




