理想の空間でめばえた、創作への意欲
物件を決めた当時は、不動産会社で営業事務の仕事をしながら、インテリアコーディネーターを育てる職業訓練校に通っていたタシロさん。勉強を終えたら、インテリアコーディネーターとしてリノベーション事業部に異動するか、転職を考えていたそう。
「でも訓練校の卒業のタイミングで異動が叶わなかったんです。一方でその頃には、団地のリノベーション工事が始まっていて。そんな状況だったので、“新しい環境でリスタートを切りたい”と想い、会社を辞めて無職の状態で引っ越しました」

駅から離れている分、眺めがいいのも魅力。窓の先に見えるのは満開の桜
フルリノベーションにあたっては、職業訓練校で学んだことを総動員し、自身で設計を担当します。リノベーション会社の設計士さんに確認をしてもらいつつの作業でしたが、その甲斐あって理想の住まいが完成しました。

前に住んでいたのは賃貸で部屋が狭く、持ち物が少なかったそう。越してきてから、家具や雑貨を買いそろえ、インテリアを整えてきた
「部屋は、頭のなかで描いていたものが具現化されて。窓からの眺めもいいですし。そんな居心地のいい空間で暮らしていたら、“ものづくりをしてみたい”という気持ちがめばえたんです。クッションがほしい、タペストリーもあったらいいな、じゃあつくっちゃおうって」
最初は、ほしい生活雑貨を気ままに手づくりしていたタシロさん。そんなあるとき、傍らにあった帆布(キャンバス生地)が目にとまります。ほつれている所を引っ張ると、するするとほどけて糸に。その糸を帆布に縫い込むことを思い立ち、やってみると無性に楽しく、帆布の糸と帆布の組み合わせが「すごくかっこいい」と思えたのだとか。

キッチンの一角。ドライフラワーや人形で目を楽しませる工夫も
「帆布はもともと好きな素材でした。帆布を糸にして手刺繍する作業は、写経や瞑想に近い感覚というか、没頭するような感じが好きでのめり込んでいったんです。当時は、仕事や人間関係の変化が大きく、内省的になることが多くて。思い返すと、創作活動に思いのたけをぶつけていたような気がします(笑)」

ほどいた糸はそのまま、または手染めして、綿布に手刺繍する。「解体と再構築」が作品づくりのテーマ

ゆるく仕切られた一室をアトリエに。前に吊るされている糸は、ベンガラや化学染料で手染めしたもの
そんなときフリーマーケットやポップアップに出店する機会に恵まれ、自身でつくったものを並べてみると、訪れた人からほめてもらえたり、質問を受けたり。うれしいことに多くを購入してもらえました。タシロさんは、幸せな気持ちに包まれます。
「インテリアコーディネーターとして進む道もあったのですが、作家業で人の暮らしが豊かになるようなものをつくりだすほうが私らしいのかなって、そのときにすごく思って。夫も『面白いものをつくっているんだから、このままがんばってみたら』と応援してくれました」
それからは、転職は考えずに個人の作家として活動することに。自分に向き合って創りだすアート作品は、「タシロユミコ」名義で発表。創作の過程で、“これでバッグつくったらかわいいし、使ってもらいやすいかな”などと思いついたら、「暮らしの品」へと展開。そちらは「syuunyaan(シューンヤーン)」名義で発表しています。

「syuunyaan」のクッションとバッグ。4月開催の個展に並ぶ予定
【タシロさんイベントのお知らせ】
タシロユミコ個展 『めぐる糸と』
会期:2026年4月24日(金)~5月11日(月)※期間中、金・土・日・月のみ開場
営業時間:11:00~17:00
場所:ngumiti蔵前(ヌグミティクラマエ)東京都墨田区本所1-23-3 2階
都営大江戸線・蔵前駅から徒歩9分/都営浅草線・浅草駅から徒歩11分
詳細はタシロさんインスタグラムから。
〈撮影/星 亘 取材・文/諸根文奈〉
タシロユミコ(たしろ・ゆみこ)
“解体と再構築”をテーマに制作するテキスタイルアーティスト。9号帆布からほどいた糸、染め、手刺繍を軸に作品を展開。また、制作過程から生まれたアイデアをsyuunyaan(シューンヤーン)名義でクッションやバッグなど『暮らしの品』としてプロダクトを手がけている。
インスタグラム@tashiroyumiko_syuunyaan



