(『天然生活』2025年5月号掲載)
訪ねたところ:紙漉キハタノ
アーティストで和紙職人のハタノワタルさんが主宰する、京都府綾部市の和紙工房。和紙の原料づくりから紙漉き、和紙を使った工芸品や建材の制作販売のほか、和紙空間の設計や施工も手掛ける。
「黒谷和紙」の工房を拝見。木の皮を繊維にする原料づくりから
京都府綾部市黒谷町、自然豊かな山里に構える「紙漉キハタノ」。何棟かの古民家を改装した工房では、原料づくりから紙漉き、和紙を使った建材やプロダクトの制作、空間の設計など、現在8人のスタッフで仕事をこなしています。

ハタノさんの紙漉きを横で見せてもらう平澤さん。版画制作で使う和紙がどんなふうにつくられているのか今日はたっぷり教えてもらえそう
数年前からは、原料となる楮(こうぞ)の栽培も手掛けています。
早速、平澤さんはハタノさんに和紙づくりの現場を案内してもらうことに。まずは原料づくりです。
訪れた2月上旬は、一年のなかでも原料の加工の時期にあたり、最も忙しい最中。12月に刈り取っておいた楮を蒸して皮をはいでいく「蒸しはぎ」を行い、白皮と呼ばれる状態に加工します。

和紙の原料となる白皮は、天日に干して乾燥させる

工房の横に広がる楮の畑へ。刈り取った楮の根元が残る
白皮になったら乾燥させて保管しておきますが、毎年自分の畑で収穫した楮を白皮にするまでは、この時期の仕事。包丁で一本一本皮をはいでいくのは時間がかかり、スタッフ総出で作業に追われます。

乾燥した白皮の手触りを確かめる平澤さん。「これを細かくしていくんですね」

畑で刈り取った楮
乾いてごわごわとしたこの白皮が紙の素(もと)になりますが、原料にするには、さらにいくつもの工程があります。
まずは、水で戻して「煮熟」。大きな鍋でぐつぐつ煮て繊維をやわらかくする重要な工程です。
「本当は羽釜を使うんですが、ちょっと予算が合わなくて」とハタノさん。代わりに給食用の釜を調達し、使っているそうです。
やわらかくなった白皮はひと晩蒸し、流水しながらごみや汚れなどを職人がていねいに取り除いていきます。
そこからさらに、打開機で叩いて繊維をほぐし、仕上げはビーターへ。水と一緒にぐるぐる回して細かくばらばらにしたら、やっと原料のでき上がりです。
工房を案内してもらいながらひと通りの説明を聞いた平澤さんは、紙を漉く前にこれだけの手間がかかることに驚いている様子。
「でも、昔は叩くのもほぐすのも人がやっていましたから。もっと大変だったと思います」とハタノさん。
楮のかたい皮は、こうして細かい繊維となり、紙の原料となるのです。

成長期の楮の樹。1年で3~4mの高さになる
黒谷和紙ができるまでの7つの工程
黒谷和紙ができるまで
① 楮を切りそろえ、束ねて蒸す。蒸し上がったらすぐに皮をむく
② 黒皮を一本一本包丁で削り、白皮にする
③ 白皮をアルカリ成分で2時間煮て、ひと晩蒸し、残った表皮や傷を取りながら水にさらしてあくを取る
④ 楮を叩いて繊維をほぐす
⑤ 楮とトロロアオイの根から抽出した液を入れて、揺すりながら紙にする
⑥ 漉き上げた紙に圧力をかけて水分を搾る
⑦ 一枚ずつはがした紙を特製のはけを使って熱いステンレス板に貼り付け、乾かす
〈撮影/辻本しんこ 取材・文/山形恭子〉
平澤まりこ(ひらさわ・まりこ)
イラストレーター、版画家。広告や書籍、パッケージのイラストレーションのほか、近年は和紙を使った描版画という独自の手法を用いた版画作品の制作に取り組む。作品集に『いつかの森』(求龍堂)、著書に『旅とデザート、ときどきおやつ』(河出書房新社)、『ミ・ト・ン』(幻冬舎文庫、小川糸氏との共著)などがある。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです




