(『天然生活』2025年5月号掲載)
自然の中で過ごす時間を大事にする

ミサオさんの人生を豊かにしてくれているもの。それは山の存在。
ミサオさんの住む金木町喜良市は良質な青森ヒバの産地としてかつて栄えたほど、とても山深い地です。
ミサオさんはその山を歩きながら、鳥の声や風の音に耳を傾けていると、いやされるだけでなく、日常の心配や悩み事も忘れられました。
笹餅づくりをしていたときは、春から秋にかけて笹を採るために頻繁に山に入っていましたが、大変さをあまり感じなかったのはそのせいです。
子どもだったころ、母は山菜やきのこといった山の恵みを採ってきてはよく食べさせてくれました。そんな思い出を懐かしみ、ミサオさんも時季になると、山に呼ばれたかのように足が向き、時間を忘れて夢中になって採取するといいます。
ミサオさんのとっておきの場所。青森ヒバの神木
そしてときどき立ち寄る、とっておきの場所を教えてくれました。
“十二本ヤス”と呼ばれている青森ヒバの巨木です。樹齢800年以上といわれ、森の中にすくっと立つ神木。その特異な木の姿から魚を突く漁具のヤスに似ていると、そう呼ばれるようになりました。

「十二本ヤス」と呼ばれている樹齢800年以上とされる青森ヒバ。神木として人々からあがめられている。幹回り約8m、高さ約34m。幹から12本の枝が分岐し、天に向かって伸びていく。「新日本名木100選」にも選定
「手を合わせていると不思議と、これが神仏だなってわかるような気持ちになるんですよ、ここはそんな場所」
木の根元には赤い鳥居が建てられ、きびしい環境下に暮らす津軽の人々の自然を敬う気持ちと、信仰心の深さが感じられるようです。
「貧乏というのも悪くないよ」と穏やかに語ったミサオさんの言葉が心に染みてきます。
〈撮影/衛藤キヨコ 構成・文/水野恵美子〉
桑田ミサオ(くわた・みさお)
1927年青森県津軽生まれ。保育園の用務員を退職後、農協の無人直売所で販売する笹餅をつくり始め、おいしいと評判になり75歳で起業。79歳で津軽鉄道“ストーブ列車”に乗りながら車内販売をはじめると“ミサオおばあちゃんの笹餅”として注目を集め人気に。笹餅づくりは95歳で引退。“笹餅おばあちゃんの手でつくる暮らし”(扶桑社)が発売。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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