介護の日々のなかで灯し続けた「好き」への思い

2025年に再始動したお店の前でパチリ。シルバーのベリーショートに映える黒のワンピースは自身が手がけるブランド「クロロ」のもの
吉祥寺のカフェ『お茶とお菓子 横尾』の店主・横尾光子さんが纏う、肩の力が抜けたおしゃれな空気感には、世代を超えて多くの人が心惹かれてしまいます。
その魅力の裏側に、実は「28年間で5人を介護し、見送った」濃密な歳月があったことをご存じでしょうか。
驚くのは、その長い日々の傍らで、カフェを開き洋服ブランドを手がけるなど、「好き」の情熱を灯し続けてきたこと。
介護の真っ只中、それでも自分らしくあるために横尾さんが守り続けた「4つのマイルール」をご紹介します。

「ひとりの静かな時間を楽しめる」がお店のコンセプト

月の満ち欠けに合わせたハーブティー(新月茶・満月茶)が人気。シンプルな器は、石井啓一さんの作品
自分らしくあるために。横尾さんが守り続けた4つのルール
横尾さんのマイルール1
好きな服を着る

手元には琥珀の大ぶりのリングを重ね付けて
病院へのお見舞いにも、大好きな「コム デ ギャルソン」の黒いワンピースで出かけていたという横尾さん。
真っ黒な服で現れる姿に、病院のスタッフはぎょっとしていたそうですが、それでも「自分の機嫌は、自分で取らなきゃ」と、心地よくいられることを手放しませんでした。
「やっぱり、服には力がありますから」
横尾さんのマイルール2
意識して、にこっとする

「考えすぎない、というかすぐに忘れちゃうのは特技ね」と、ビックスマイル
あるとき、入院中のお父さんから「お前はいつも怖い顔して入ってくるな」と言われてはっとしたそうです。気構えると、表情はこわばる。それに気づいてから、意識して口角を上げるようにしたといいます。
「些細なことだけど、それだけで空気がやわらぐし気持ちも変わるんですよ。単純ね(笑)」
横尾さんのマイルール3
少し引いて眺める

カフェの窓際席。通りを眺める時間が心を整えてくれる
つらいことも、一生懸命なことも、まっすぐ向き合いすぎると心が擦り減ってしまう。だから「いま私はこういう状況にいるんだな」と、少し距離をとって見つめる目をもつこと。
認知症で変わっていく母親の姿も、「ほほう、今度はこうきたか」と人間観察をするような気持ちで見るようにしていたといいます。
横尾さんのマイルール4
カフェでのひとり時間

名物のお汁粉は、甘酒の風味とやさしい甘さ。本格的に和菓子を学んだ横尾さんの自信作
介護している最中も、よくカフェに通っていたという横尾さん。
物理的に現実から離れ、好きな空間に身を置くこと。本を読んだり、ぼんやりしたり。そんな時間が自分を取り戻させてくれたといいます。
77歳、「なりたい」より「やりたい」を生きる

「幼い頃から、あれやこれや楽しい未来を妄想してました。いまもそんな時間が好き」
「介護は終わる。そして自分にも終わりがある。だからこそね、前向きに」
その言葉どおり、介護を見送り終えた横尾さんは、股関節の手術を経てもなお「もう一度お店に立ちたい」という直感から、昨年にお店を再始動。
今度はジャズを歌うという夢まで持ち始めました。
「“なりたい”んじゃなくて、ただ“やりたい”だけなの」
シンプルなその言葉が、じんわり胸に響きます。
今回、この横尾さんのお話を紹介していたのが、『This Day Magazine(街と、介護と、コーヒーと。)』。インスタグラムやYouTubeでは、横尾さんの朗らかな笑い声や、インタビューの空気感もまるごと配信されています。
〈撮影/砂原 文 取材・文/綾田純子〉
横尾光子(よこお・みつこ)
1948年生まれ。家族の介護と並行しながら、50代未経験で東京・吉祥寺に「お茶とお菓子 横尾」を開業。多くのメディアで紹介される人気店に。現在は島根と東京を行き来しながら、両拠点でカフェを展開。主宰する大人服ブランド「クロロ」では「がんばりすぎないけれど品がある」スタイルを提案する。
インスタグラム:@yokoomitsuko @ocha_okashi_yokoo_chloro
訪れた人:
綾田純子(あやた・すみこ)
1969年生まれ。編集者・ライター。東京でフリーランスとして、インテリア、旅、ライフスタイルを中心に雑誌や書籍の編集・制作に携わった後、故郷・岡山へ。高齢の両親の介護をしながら活動を続ける中で、介護する人の暮らしにも、好きなものや美しいもの、ユーモアを。そんな思いから、Webマガジン「This Day Magazine 〜街と、介護と、コーヒーと 〜」を立ち上げる。岡山在住。
インスタグラム:@sumiko_a




