83歳の多良久美子さん。息子は最重度知的障がい、娘は早逝……。苦労の多い暮らしのなかでも、家事に「仕事」として張り合いをもち、家の中で小さな楽しみを見つけながら50年間過ごしてきました。息子の障がいがわかってからの、落ち込む暇もなく走り続けてきた日々と、「家仕事」への思いを聞きました。
(『83歳の私を支える家仕事』より)
家事という、日常に張り合いを与えてくれる「仕事」
83歳の今、家にいる時間が多くなりました。地元の社協(社会福祉協議会)から受けていた報酬をもらう仕事は引退し、所属している「障がい児・者の親の会」の仕事も若い人に委ねました。
同世代の友達からは、「時間を持て余してないの?」なんて聞かれますが、意外にも毎日することがたくさんあって時間が足りないくらいです。
外でする仕事はなくなりましたが、家の中でする「仕事」である家事があります。
私にとって家事は、自分の役割だと考えています。金銭の報酬はありませんが、立派な仕事です。そう思うと、毎日の掃除や洗濯、ご飯づくりにも、張り合いを感じます。
家事を仕事ととらえるようになったのは、最重度の知的障がい者の息子との暮らしが、きっかけだと思います。

突然、息子が障がい者に。家族の“司令塔”になると決めた
息子が4歳のとき、麻疹が原因で障がい者になりました。突然のことに、私の心は追いついていきません。
息子の障がいを受け入れられず、「私がなぜこんなつらい目にあわないといけないの?」とか「他の子どもたちは元気なのに、息子だけがどうして?」と思って、落ち込む日々でした。
心配した夫の両親が同居を申し出てくれ、家族6人で暮らすことになりました。両親の存在は心強かったけれど、障がいのある息子、高齢の両親、働き盛りの夫、まだ小さい娘がいる毎日は、座る暇もないくらい忙しいものでした。
どうしても息子中心になってしまいますが、それでは家が回りません。家族それぞれが、生き生きと生活できるように、家の中を整えないといけない。私がしっかりしなければ家族みんなが潰れてしまう。
「この家の司令塔になろう」と、家事全般を担う自分の役割を強く意識しました。
振り返ってみれば、家事という、体や頭を使う仕事があったことが、あのときの私の救いでした。
落ち込んでいる暇がないくらい、毎日するべき仕事がありました。
常に意識しているのは、どうにか工夫をして効率よくこなすこと。大家族ですので、時間をかけてていねいにしていたら、するべきことが終わりません。
自分で考えた工夫によって、昨日よりも早く掃除が終わった、料理の工程が少なくなったといった成果が出たら、小さな達成感が得られました。
「やるべき仕事がある」と思うと、毎日張り合いが生まれました。家族みんなが元気で無事に過ごせたことが、仕事への報酬のような気がしたのです。
ていねいでなくても、ほどよく手を抜いて続けることが元気の秘訣
あれから50年、私は同じ思いで家事をしています。3人家族になり、私も年をとりました。
でも、家事をやりたくないなと思うことはありません。
常に効率のいい方法、つまり手抜きを考えて実践しているので、ラクしていますから。ていねいな暮らしはしていません(笑)。
83歳でも元気で過ごせるのは、頭と体を使ってする家仕事、毎日の家事のおかげだと思います。
本記事は『83歳の私を支える家仕事』(すばる舎)からの抜粋です
〈撮影/林ひろし〉
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家の中は創造性にあふれている
いつも元気で溌剌とした83歳・多良久美子さんは、家事を「仕事」と呼びます。「仕事」と思うことで張り合いが出て、創意工夫する楽しさが生まれる。毎日尽きることなく家仕事は発生します。「何にもすることがない」というシニアの方も多いけれど、今日、するべき家仕事や、朝起きる理由がある。それに家仕事はした分だけ、おいしいご飯が食べられたり、きれいな部屋で過ごせたり、ちゃんと見返りがある。頭も体も使い、もってこいのエクササイズにも。障害のある子がいて外出のままならなかった久美子さんが、長年培ってきた「家の中を最高に楽しい場所にする」方法を伝授します。
多良久美子(たら・くみこ)
昭和17年(1942年)長崎生まれ。8人きょうだいの末っ子。戦死した長兄以外はみな姉妹。2歳のときに被爆。翌年母を癌で亡くし、父と姉たちに育てられる。高校生のときに父の会社が倒産し、進学を断念。24歳で結婚後、4歳で麻疹により最重度知的障がいとなった息子を育てる。娘は早逝。80歳を前に、長く携わってきた社協の仕事を引退、「障がい児・者の親の会」は相談役に。「これからは私の時間!」と、これまで忙しい日々で細切れにしかできなかった趣味の織り物やピアノに、どっぷりつかる日々。料理やインテリアなど「家時間」を楽しむのが好き。姉は、12万部のベストセラー『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(すばる舎)の多良美智子さん。著書に『80歳。いよいよこれから私の人生』がある。
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