• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。今回は、猫のお風呂と、猫にも人にも無理のないお手入れについて考えます。

    猫の「きれい」は、猫におまかせ

    猫と暮らし始めたころ、私は、猫は定期的にお風呂へ入れなくてはいけないと思っていました。

    とくに、わが家の猫たちはみんな元保護猫です。ほとんどが野良猫として外で暮らしていた子たちでした。

    保護したばかりで猫風邪をひいている間は、さすがに我慢します。けれど、風邪が治るとすぐにお風呂へ。

    外で暮らしていたのだから、きれいに洗ってあげなくては。もともと私が少し潔癖症ぎみだったこともあり、入れずにはいられなかったのです。

    猫たちからすれば、ようやく暖かい家にたどり着いたと思ったら、今度は突然お湯をかけられるのですから、たまったものではなかったでしょう。

    「聞いていた保護と違う」

    そんな顔で見られていた気がします。

    ところが、猫との暮らしに慣れてきたころ、ふと読んだ記事に、猫は自分で毛づくろいをするため、基本的には頻繁にお風呂へ入れる必要はないと書かれていました。

    そういえば、わが家の猫たちもひまさえあれば、前足をていねいになめ、顔を洗い、体の隅々まで自分できれいにしています。

    画像: ふくふくのおなかもなめなめ

    ふくふくのおなかもなめなめ

    こちらが掃除を少しさぼっている間にも、猫はせっせと自分を磨いている。猫は、私が思っていた以上にきれい好きで、自分の体を清潔に保つことのできる生き物だったのです。

    それからは、よほどの理由がないかぎり、お風呂へ入れるのを控えるようになりました。

    人間にとっての「きれい」と、猫にとっての「心地よい」は、必ずしも同じではありません。水に濡れることも、ドライヤーの音も、体を長く押さえられることも、猫によっては大きなストレスになります。

    画像: いつもお顔を洗っている、でかお

    いつもお顔を洗っている、でかお

    きれいにしてあげたいという気持ちが、知らないうちに猫を怖がらせてしまうこともあるのだと、少しずつ気づきました。

    ただ、いまは亡き「イレーネ」という猫は、膀胱と腸が麻痺していて、いつもうんちやおしっこが漏れてしまっていました。

    汚れがひどいときは、お風呂へ入れなければなりません。けれど、毎回全身を洗うのは、イレーネの体にも心にも負担がかかります。

    画像: お風呂に入れられたイレーネ「ひどい目にあった!」

    お風呂に入れられたイレーネ「ひどい目にあった!」

    そこで、できるだけ、温かい濡れタオルで汚れた部分だけをふき、必要なところだけをそっと洗うようにしていました。

    「きれいにしなくては」と力むのではなく、温かい布で体を撫でる時間が、イレーネにとって少しでも気持ちのよいものになればと思っていました。

    実際のところ、イレーネがどう思っていたかはわかりません。

    「まあ、悪くない」と思ってくれていたのか。
    「今日も人間がなにかしている」と、半ばあきらめていたのか。

    それでも、ふかれているうちに体の力が抜けていく姿を見ると、こちらも少しほっとしました。

    初めのころ、私にとって猫をきれいにすることは、汚れをすっかり落とすことでした。

    けれどいまは、その子が嫌がらず、怖がらず、気持ちよく過ごせるようにお手伝いをすることだと思っています。

    画像: 真っ黒だけど、きれいにするのです

    真っ黒だけど、きれいにするのです

    完璧にきれいでなくてもいい。少しくらい毛に寝ぐせがついていても、猫本人が堂々としているなら、それはそれで完成形です。

    猫が自分でできることは猫に任せ、難しくなったところだけ、人の手をそっと添える。それくらいが、猫にも人にも無理のない、ちょうどよいきれいなのかもしれません。

    画像: 猫同士もきれいきれい

    猫同士もきれいきれい

    ◇ ◇◇ ◇◇


    画像: 汚れやにおいが続くときは体調を確認する

    咲セリ(さき・せり)
    1979年生まれ、大阪在住。作家、家族療法カウンセラー。夫と10匹の元保護猫と暮らす。心の病や生きづらさを抱えるなか、不治の病をもつ一匹の猫との出会いをきっかけに、「命は、生きているだけで愛おしい」ということを知る。以来、生きづらさのなかにある小さな希望を、ノンフィクションや小説、エッセイに綴りつつ、NHKの福祉番組への出演、全国での講演などでも活動。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日』(KADOKAWA)など。

    note:https://note.com/sakiseri

    ◆ブログ「ちいさなチカラ」

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    「ひとりきりでも、揚げたてコロッケはおいしいけれど、絶滅の前夜、恐竜たちは、誰かと何かを食べたのだろうか」
    大阪の片隅。この世界からこぼれそうな人たちが、ふっと息をつけるうらぶれた居酒屋「飛鳥」。

    ・本日のフランス料理「ちくわぶとねぎのグラタン」
    ・自動販売機の50円のカフェオレチューハイ
    ・猫も喜ぶどて焼きオムレツ
    ・裏メニュー「ぐちゃまぜ豆腐丼」

    雑であたたかなごはんと、傷を負った人々の泥臭いぬくもりを描いた、絶望のなかにあるちいさな灯りの物語(全4編)。



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