• 生きづらさを抱えながら、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていた咲セリさん。不治の病を抱える1匹の猫と出会い、その人生が少しずつ、変化していきます。生きづらい世界のなかで、猫が教えてくれたこと。猫と人がともに支えあって生きる、ひとつの物語が始まります。今回は、年齢とともに体力が変わっても、猫との時間を無理なく楽しめる、少し手抜きな遊び方のお話です。

    その日の元気で、その日の遊びを

    わが家では、夫が猫たちの「いやし係」で、私が「遊び係」です。

    夫は猫がそばに来れば、黙って撫でる。ひざに乗られれば、足がしびれても動かない。猫たちが眠っているだけで、「かわいいなぁ」と目を細めています。

    一方、私はというと、猫じゃらしを振り、ボールを投げ、家具の陰からおもちゃをちらつかせる係。

    猫と暮らし始めた20代のころは、毎日のように猫じゃらしを振っていました。

    右へ左へ走らせ、急に止め、物陰に隠し、虫になったり、ヘビになったり、ときには自分でもなんの生き物なのかわからない動きをさせたり。

    若かった私は、猫たちが飽きるまで、いくらでも遊べたのです。

    画像: ぶれっぶれになるくらい、楽しー!

    ぶれっぶれになるくらい、楽しー!

    あれから20年以上。47歳になった私は、それなりに体力がなくなりました。

    一日中、書く仕事に集中した日は、夕方には頭も体もへとへとです。

    「今日は猫たちと遊ばなきゃ」

    そう思ってはいても、猫じゃらしを持つ腕が上がりません。正確には、腕は上がるのですが、できれば上げたくありません。

    そんなとき、シニア猫たちは比較的おおらかです。撫でてもらったり、おいしいものを食べたりすれば、「まあ、今日はこれでよし」と納得してくれます。長く生きると、人も猫も、世の中には妥協が必要だと知るのでしょう。

    問題は、若い世代です。

    猫のおもちゃを隠している扉を用事があって開けた瞬間、家中が騒然となります。どこからともなく猫たちが集まり、足元を走り回り、目を輝かせてこちらを見上げます。まだなにも出していないのに、祭りはすでに始まっています。

    こうなると、遊び係の血が騒ぎます。

    さっきまで「今日は腕が上がらない」といっていた人間が、本気で猫じゃらしを振り始めます。床を這わせ、椅子の下をくぐらせ、空中を飛ばし、猫たちと一緒になって部屋を走る。

    画像: 「獲物はしとめた!」

    「獲物はしとめた!」

    終わるころには息が切れています。

    これを毎日続ければ痩せるのではないかと思うのですが、いまでは本気の猫じゃらし大会は、週に一度ほどです。

    猫たちも、そのあたりは理解してきました。

    「この家の遊び係は、昔ほど動かない」

    残酷な事実を受け入れ、それぞれに遊び方を工夫してくれています。

    そこで最近は、好きそうな箱を部屋に置き、丸めた紙を投げ入れることがあります。

    紙の玉を追いかけて箱に飛び込んだり、中でひとり相撲を取ったり、箱の外から別の猫が手を出したり。

    私は少し離れた場所から、ときどき紙を投げるだけ。

    かなり手を抜いているのに、猫たちは案外楽しそうです。

    画像: 「紙玉投げてー!」

    「紙玉投げてー!」

    猫と遊ぶというと、人間がきちんと相手をしなければいけないように思います。けれど、毎日全力で遊ぶことはできません。

    体調が悪い日もあれば、仕事で疲れきる日もあります。そんな日は、座ったままでも、寝転がったままでもいい。

    少しだけ動かしたひもや、投げた紙の玉から、猫たちは勝手に大事件をつくり出してくれます。

    画像: 「包装紙の下にもぐるだけでもサイコー!」

    「包装紙の下にもぐるだけでもサイコー!」

    若いころの私は、猫を楽しませるために、一生懸命遊んでいました。いまの私は、猫たち自身が遊びを見つける力にも、少し甘えています。

    毎日完璧な遊び係ではないけれど、たまに本気を出す。

    そのくらいの働き方で、これからも長く勤めさせてもらえたらと思っています。

    画像: 箱、それは最大のおもちゃ

    箱、それは最大のおもちゃ

    ◇ ◇◇ ◇◇


    画像: おもちゃは必ずお片づけを

    咲セリ(さき・せり)
    1979年生まれ、大阪在住。作家、家族療法カウンセラー。夫と10匹の元保護猫と暮らす。心の病や生きづらさを抱えるなか、不治の病をもつ一匹の猫との出会いをきっかけに、「命は、生きているだけで愛おしい」ということを知る。以来、生きづらさのなかにある小さな希望を、ノンフィクションや小説、エッセイに綴りつつ、NHKの福祉番組への出演、全国での講演などでも活動。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日』(KADOKAWA)など。

    note:https://note.com/sakiseri

    ◆ブログ「ちいさなチカラ」

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    「ひとりきりでも、揚げたてコロッケはおいしいけれど、絶滅の前夜、恐竜たちは、誰かと何かを食べたのだろうか」
    大阪の片隅。この世界からこぼれそうな人たちが、ふっと息をつけるうらぶれた居酒屋「飛鳥」。

    ・本日のフランス料理「ちくわぶとねぎのグラタン」
    ・自動販売機の50円のカフェオレチューハイ
    ・猫も喜ぶどて焼きオムレツ
    ・裏メニュー「ぐちゃまぜ豆腐丼」

    雑であたたかなごはんと、傷を負った人々の泥臭いぬくもりを描いた、絶望のなかにあるちいさな灯りの物語(全4編)。



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