(『天然生活』2025年10月号掲載)
よい味噌玉麹をつくれば菌と時間が育ててくれる
大豆を主原料に、麹菌と塩を合わせて発酵・熟成させる伝統調味料・味噌。
その起源は1300年以上さかのぼるとされ、日本各地でそれぞれの製法と味が受け継がれてきました。

明治期に創業された中定商店。敷地内には当時の面影を感じる蔵や倉庫などが連なり、観光地としても人気なのだとか
愛知県知多半島のほぼ中央部、武豊町にある「中定商店」は、東海地域で愛される「豆味噌」の味を伝える名店。創業は明治12年、昭和初期までに増築を重ねて以来、蔵は変わることなく守られています。

大人の背丈よりも高い桶に、はしごをかけて登る中定商店6代目・中川安憲さん。中定商店の蔵には高さ約2.4mの八尺桶が20本現存する
蔵に足を踏み入れると、巨大な杉桶が森のように立ち並び、甘さと香ばしさが混ざった香りがいっぱいに立ち込めています。

緊張感漂う麹づくり
現在、国内で製造されているほとんどの味噌は、加熱した大豆に米や麦の麹、塩を合わせて桶に詰め、発酵・熟成を経て完成します。
しかし、愛知の豆味噌に使うのは、大豆と麹、塩のみ。蒸した大豆をつぶし、玉にして、そこに直接麹菌を振りかけて味噌玉麹をつくる「全麹仕込み」が特徴です。
この製法は、大豆と麹を別につくって合わせる味噌に比べ、失敗すればすべての原料がむだになってしまう難しさも。
加えて、大豆の麹づくりは雑菌に侵されやすいため、冬の仕込み期間は、蔵が最もよい味噌玉麹をつくれば菌と時間が育ててくれる緊張する時期となります。

中川安憲さん。蔵での麹づくりの復活、味噌の長期熟成の実践など伝統に立ち返る味噌づくりでファンを広げている
「味噌玉麹づくりは何度やっても難しい。最初から最後まで気を抜けません」と話す中定商店6代目の中川安憲さん。この時期ばかりは時間を問わず、気になればすぐに麹室に足を運ぶのだと話します。
「よい麹さえできれば、あとは蔵と桶に任せるだけ。ここに棲む有用菌が、時間とともにおいしい味噌を育ててくれますから」
3年の熟成で、色とうま味を育んだ
はじめて目にしてもどこか懐かしく、また荘厳さも感じる味噌蔵の光景ですが、近年はこのような環境も珍しいものになってしまった、と中川さん。
他の食品製造と同様、味噌づくりもコンクリートの建物の中、プラスチック製の桶を使って仕込まれることが「常識」に。
さらに、より早い出荷のため、加温や添加物によって熟成期間を短くしているものも多く流通しています。
それでもそんな時代のなかでこそ「基本に忠実に杉桶仕込みとこの蔵を守りたい」と中川さんは力を込めます。

蔵では古くは200年近い桶を現役で使っている
実は中川さんは6代目に就任後、それまで2年間だった味噌の熟成期間を3年へと延ばすことに。
戦後、出荷量が一気に増えた時代には1年で出荷していたこともあると知りながら、「豆味噌だからこそ3年で」との決断でした。
「米麹の味噌は1年熟成の若い香りも魅力。一方で、タンパク質のかたまりである大豆の味噌は時間とともにどんどんうま味を深めていきます。そのうま味が最大限に出るのが3年熟成だとわかったので、以来ほとんどの商品でこの熟成期間を守っています」

訪ねたところ
中定商店
明治12(1879)年に愛知県長尾村(現武豊町)にて創業。以来、創業当時からの蔵を守り、木桶仕込み・天然醸造を続ける。6代目当主である中川安憲さんが、蔵の原点に立ち返り、麹からの一貫生産を復活。さらに「大豆のうま味を最大限に引き出すために」と、味噌の熟成期間を3年に統一した。https://www.ho-zan.jp/
<撮影/千葉亜津子 取材・文/玉木美企子>
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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