• 食べる人の体調や年齢、その日の気分に合わせて、量や味を変えられるスープは、介護や家族のケアをしている人たちにとっても心強い味方です。スープ作家・有賀 薫さんに、家族みんながおいしく食べるための工夫、介護をされたお母さまとの時間を通して感じたことを伺います。さらに、日々のケアをしながら自分自身を支えるためのヒントも。

    ひと鍋からそれぞれの好きな味に

    「家のごはんは、これが正解とひとつに決めなくていいと思うんです。量も、味の濃さも、食べ方も人それぞれ。家では、小さなわがままも大事にしたいですよね」

    そんな有賀さんが教えてくれたのは、薄味のポタージュをつくり、仕上げをそれぞれの好みに合わせる方法。取り分けたあとに、スパイスやパクチーで香りを足したり、ナッツやチーズを添えたりします

    「たとえば、幼児と大人、年を重ねた親とでは、食べたい味が違います。最後に少しずつ変えられるから、スープは気楽に付き合えるんです

    食が進まない日には、ごはんや麺を少しだけ加えた、小さな一椀もすすめてくれました。

    家族それぞれの好みにも、その日の食欲にも寄り添える。そんなところにも、スープのよさがあります。

    画像: かぼちゃ・バター・塩・水だけのシンプルなポタージュ。マッシュしたかぼちゃをバターを加える前に取り分ければ、赤ちゃんの離乳食にも

    かぼちゃ・バター・塩・水だけのシンプルなポタージュ。マッシュしたかぼちゃをバターを加える前に取り分ければ、赤ちゃんの離乳食にも

    画像: ポタージュにナツメグとカルダモンをふって、ちょっぴりスパイシーに。トッピングには焼いたくるみを

    ポタージュにナツメグとカルダモンをふって、ちょっぴりスパイシーに。トッピングには焼いたくるみを

    介護の食は、その人の「おいしい」を探すことから

    大切な人には、バランスのいいごはんを食べてほしい。食事をつくる側としては、そう思いますよね。有賀さんにも、亡くなったお母さまの療養を支えるなかで、毎日の食に思い悩んだ日々がありました。

    有賀さんが亡くなられたお母さまを介護されたのは、入院期間を含めた約3カ月。うち1カ月は、療養のため実家へ戻ったお母さまと寝起きをともにされました。それは、かけがえのない濃密な母子の時間だったといいます。一方で、料理のプロである有賀さんにとって、それは思いどおりにならない苦しい時間でもありました。

    「治療の影響で、母はそれまで大好きだったおだしの味を受け付けなくなってしまったんです。体が弱っていくと、野菜料理を食べることも難しくなって。栄養面や食べやすさをいくら工夫しても、本人が本当に食べたいものをつくってあげられない。食を仕事にしているのに、一番身近な母の力になれないことが、何よりもつらかったですね」

    「介護の食事にはこれがよい」というセオリーが、目の前の人にそのまま当てはまるとは限らない、と有賀さんは振り返ります。慣れ親しんだ味でも、体調によっては受け付けないことがある。「少しでも体によいものを」と願う葛藤の中で、見えてきた答えがありました。

    「栄養はもちろん大切。でも、本人が食べたいという気持ちを置き去りにはできません。食べることが難しくなったときこそ、『もう食べられない』と諦めるのではなく、まだできることを探す。それは、最後まで食べる喜びを感じてもらえるよう、“その人にとってのおいしい”を一緒に見つけること。それこそが、家庭でつくるごはんの本当のあたたかさなのだと思います」

    介護する側の “私”の食べたいものも食卓に

    家族の「おいしい」を優先するあまり、ごはんをつくる「私」自身のことは、つい後回しになりがちです。

    『自分を大事に』といわれても、それができたら苦労しない……。そう感じる日々に、有賀さんはこう語りかけます。

    「そうですよね。でも、ときには自分が食べたいものをつくったり、外で食べてもいいんだよ、と伝えたい。おいしいものを食べると、心の底から力がわいてくるのを感じるじゃないですか。食べることは、命をつなぐことですから」

    お話を聞いて、気負わずにつくる一椀のスープにも、家族や自分をいたわる気持ちは込められるのだと感じました。

    無理なくつくり、おいしく食べる。その積み重ねが、私たちの日々をやさしく支えていくのだと感じます。

    画像: トマトとパンのスープ。香りのいいチーズをけずり、ワインを添えて。自分のために整える一皿で、ときにはぜいたくなひとときを

    トマトとパンのスープ。香りのいいチーズをけずり、ワインを添えて。自分のために整える一皿で、ときにはぜいたくなひとときを

    【大切な人へ、自分へ。甘い時間を贈る「This Day BOX」】
    This Day BOX
    今回の取材を担当した綾田純子さん主宰の『This Day Magazine(街と、介護と、コーヒーと。)』から、200個限定のギフトボックス「This Day BOX」が登場。100%ORANGEさんの描き下ろしイラストを布貼りの特製ボックスに仕立て、「お茶とお菓子 横尾」のサブレ2種、満月茶、ZINE(小冊子)を、ひとつずつ手作業で大切に詰めてお届けします。
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    *ご予約期間:9/30(水)~10/10(土)



    〈写真提供/有賀 薫 取材・文/綾田純子〉

    画像: 介護する側の “私”の食べたいものも食卓に

    有賀 薫(ありが・かおる)
    スープ作家。1964年、東京都生まれ。2011年から毎朝スープをつくり続け、SNSで発信。素材を生かしたシンプルなレシピや、暮らしに寄り添う家庭料理の考え方を各種メディアで伝えている。スープの実験室「スープ・ラボ」をはじめ、スープをテーマにした活動も多数。著書に『スープ・レッスン』(プレジデント社)、『スープが作れたら、自炊は半分できたようなもの』(オレンジページ)など。
    インスタグラム:@arigakaoru

    【「スープの学校」第3期開催】
    9月29日(火)・10月13日(火)・10月22日(木)に、有賀薫さんの人気講座「スープの学校」(クックパッド主催)の第3期を開催予定。秋の味覚をまるごと味わう新テーマでお届け予定です。
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    取材した人:
    綾田純子(あやた・すみこ)
    編集者・ライター。1969年生まれ。東京でフリーランスとして、雑誌や書籍、広告の制作に携わった後、故郷・岡山へ。高齢の親の介護をしながら活動を続けるなかで、介護する人の暮らしにも「好きなものや美しいもの、ユーモアを」という思いから、「This Day Magazine(街と、介護と、コーヒーと。)」を立ち上げる。
    インスタグラム:@thisday_magazine
    YouTube:https://www.youtube.com/@Thisday_Magazine



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