(『天然生活』2014年11月号掲載)
羅臼昆布とは
羅臼周辺(知床半島の国後島側)の沿岸の海に生息。正式名はエナガオニコンブ。だしのおいしさから、「だしの王様」とも呼ばれる。採取後、40を超える工程を経てつくられる。そこには羅臼の昆布漁師の愛情と技が詰まっている。
「羅臼の昆布漁」|知床の海で採れる、羅臼昆布の魅力(1)より続き —
40工程もの手間をかけ、極上の羅臼昆布が生まれる
そんな自然の恵みたっぷりの羅臼昆布を極上の品へと磨き上げるのが、昆布漁師たち。漁のあとは、昆布の始末にいそしむのです。
なぜなら、羅臼昆布は、昔は88、いまでも40を超える工程を経て、でき上がるからです。松田さんが惚れ込んだのも、その部分。
「昆布漁師の方々は、まるで子どもを育てるように、昆布に手をかけます。だからおいしいのです。大変な作業ですが、これからもずっと守っていてほしいです」
通常の昆布であれば洗って天日で干せば製品になりますが、羅臼昆布の場合は、干して乾いたものを夜露に当てて湿らせ、手でしわをのばしながら巻きます。
そうやってきれいにしわをのばした昆布を今度は一枚一枚、積み上げていき、重しをかけて寝かせます。
これが奄蒸(あんじょう)と呼ばれる工程で、羅臼昆布のうま味や香りを凝縮させるのに欠かせない熟成のプロセスなのです。
この一連の作業は、番屋と呼ばれる作業小屋で10月まで続きます。とくに、漁と始末が重なる夏の1カ月あまりは、“子どもより昆布の世話”と、寝る間も惜しんでの作業が続きます。
そんなにも大変な日々の連続なのに、井田さんは「手間をかけただけ、磯臭さが取れ、おいしくなるからね」と、羅臼昆布というものづくりを心から楽しんでいるよう。それこそが、羅臼の昆布漁師の誇りなのでしょう。
だからこそ羅臼昆布は、20年寝かした昆布に匹敵するといわれるほど、うま味がたっぷりなのです。
羅臼昆布ができるまで
採取
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洗う(+根切り)
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日入れ(干す)
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湿り取り(夜露に当てる)
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巻き上げ
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昆布のし(のばし)
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1回目奄蒸(積み上げて重しを載せる)
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日入れ(干す)
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2回目奄蒸(積み上げて重しを載せる)
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ヒレ刈り(端を切って形を整える)
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3回目奄蒸(積み上げて重しを載せる)
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選別(等級に分けていく)
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箱詰め(頭をそろえて詰める)
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「漁師のお母さんの昆布料理」|知床の海で採れる、羅臼昆布の魅力(3)へ ⇒
「松田美智子さんの昆布料理」|知床の海で採れる、羅臼昆布の魅力(4)へ ⇒
<撮影/川村 隆 取材・文/野上郁子(オフィスhana)>
松田美智子(まつだ・みちこ)
料理研究家、テーブルコーディネーター、日本雑穀協会理事、女子美術大学講師。季節感と素材の味そのものの味、風味を大切に、つくりやすい料理を心がける。保存食の本『季節の仕事』が扶桑社より復刊予定。
※トップの写真について
昆布漁が終わると、休む間もなく、洗いの作業が待っている。家族総出で、海水で昆布に付いた泥や汚れをきれいに洗い流す
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです