「趣味は、暮らし」と笑う、料理家・横山タカ子さん。日々、保存食をつくり、運針をし、庭の手入れをする、四季とともにある日常を、自分流に、自由に楽しんでいます。それは、遊び心に溢れ、同時にとても美しい。そんな信州の季節に寄り添った、横山さんの四季の暮らしを、ご一緒に、ぜひお楽しみください。今回は、「鍋」のお話です。
(横山タカ子・著『信州四季暮し』より)
どうして、こうも鍋好きだろう。鍋を売っている場所に行くと立ち止まり、「すでにたくさんあるうえに、置く場所もないし」と考えながら見入ります。
使っている鍋の素材は、鉄、銅、陶、ステンレス。それにホウロウと鋳物ホウロウです。
鉄のフライパンは、「くっつきやすく、油をたくさん使うから、錆びるから」と敬遠する人も多いのが、とても残念です。調理に使えば、少しずつですが鉄分が摂れるのに。
鉄製フライパンは使用後、洗剤を使わず、ぬるま湯で洗うだけでいいですね。周りに汚れがこびりついたら、裏返して細いガス火で焼き切ると、新品同様になります。
鉄鍋で黒豆を煮ると、釘も鉄玉も必要ありません。厚手の銅鍋で煮るおでんは、そのまま食卓へ直行。いつまでも温ぬくまってくれます。
鋳物ホウロウは蒸し焼きに重宝。土鍋はじんわり、ほっこり温まるところも、スタイルも大好き。
2013年に、和食はユネスコの無形文化遺産に登録されました。「一汁三菜」はもちろんのこと、だしのとり方や、調理道具も大切なポイントとなっています。
鍋の素材自体のもつ力—これは味に証明されます。
信州の郷土鍋 おからこ鍋
材料(4人分)
だし
● 水 | 8カップ |
● 煮干し | 32g |
● 淡口しょうゆ | 70ml |
● 塩 | 小さじ1 |
具
● もち米 | 2合 |
● 大根(いちょう切り) | 200g |
● ごぼう(いちょう切り) | 中1本分 |
● にんじん(いちょう切り) | 中1本分 |
● 長ねぎ(斜め切り) | 2本分 |
● 白菜(ざく切り) | 5~6枚分 |
● 油揚げ(2cm四方に切る) | 2枚分 |
● 里いも(ひと口大の乱切り) | 300g |
作り方
1 もち米は水に浸してひと晩おき、水けをきる。50mlほどの水を加え、すり鉢かフードプロセッサーで、握れる程度まで砕き、ひと口大に丸める。
2 鍋にだしの材料を入れて火にかけ、だしをとる。そこに1以外の具を入れて、火をとおす。
3 1のだんごを加え、3分ほど煮て火をとおす。
おでん
材料(5人分)
だし
● 水 | 1.5リットル |
● あご(煮干し) | 5本 |
具
● 大根 | 1本 |
● 油揚げ | 5枚 |
● さつま揚げ | 4枚 |
● 白滝 | 200g |
● ちくわ | 3本 |
● 酒 | 50ml |
● 砂糖 | 大さじ1 |
● 淡口しょうゆ | 100ml |
作り方
1 大根は皮付きのまま、3cm幅の輪切りにする。大鍋に水、あご、大根を入れて火にかける。
2 油揚げとさつま揚げは、それぞれさっとゆでて油抜きする。白滝は水からゆで、沸騰したらざるにあげ、食べやすく切る。油揚げは短い端の片側を切って縦長の袋状にし、白滝を下半分ほど詰め、上半分を中に折り込む(こうすると中から出てこない)。
3 大根が竹串が通る程度に煮えたら、2、ひと口大に切ったさつま揚げとちくわを加え、酒、砂糖、しょうゆを加えて味を含める。
*あごはそのまま食べてもおいしい。
<撮影/本間 寛>
横山タカ子(よこやま・たかこ)
料理研究家。長野県大町市生まれ、長野市在住。長年、保存食を中心とした長野の食文化を研究すべく各地に赴き、料理名人から教わる。長野県の特徴でもある、野菜をたっぷりと使った保存食は「適塩」で作り、季節の食材は手をかけすぎず、素材を生かしてシンプルに食べることを信条とする。地元の農作物を広める活動にも尽力。大の着物好きでもある。