• 無理して相手に合わせず、自分のペースで、自分ができることをやればいい。暮らしに時差のある「枯白」乾夫妻の休日の過ごし方を紹介します。
    (『天然生活』2017年1月号掲載)

    平日のための休日の段取り

    夫・喬彰さんの段取り

    週末になると、工房内にプーンと香ばしいにおいが広がって、ここは何屋さんだったっけ?と思わず見まわしてしまいそう。近所のコーヒー豆屋さんに焙煎機を譲ってもらってから、喬彰さんは生豆を買って自分で焙煎するようになりました。温度を調節して、時間を計り、待つこと20分ほど。香ばしく焼けた豆が、焙煎機から吐き出されます。

    「最初は何度も失敗して泣きたくなりましたが、ようやく思ったように仕上がるようになりました」と喬彰さん。

    買うよりもずっとリーズナブルだし、いつも焙煎したてのコーヒーを飲むことができて、ふたりにとって何よりの贅沢に。

    コーヒー豆を焙煎する

    画像1: 夫・喬彰さんの段取り

    工房の一角に古い焙煎機を置いたコーナーがある。焙煎職人さながらの喬彰さん、真剣な表情。豆のはぜる音や、香ばしい香り、煙などを感じる時間は、無心になれて、ふと、いいものづくりのアイデアが浮かぶことも。約1週間で飲みきる。

    天然酵母のパンを焼く

    画像2: 夫・喬彰さんの段取り

    ドイツに留学したときに食べた、ライ麦を使った酸味の強いドイツパンのおいしさが忘れられず、自分でつくるように。陶芸家の大谷哲也さんに教えてもらった方法で。

    集中したときにアイデアが浮かぶ

    画像3: 夫・喬彰さんの段取り

    コーヒー焙煎の温度管理表をつけている。ひとつのことに没頭するのも、いい気分転換になる。

    妻・直実さんの段取り

    休みの日の午前中、食材の買い出しから帰ると、「料理遊び」と直実さんが呼んでいる作業にとりかかります。これは、いつ食べる、と決めずに、「いつか」のために、自分が好きなものをつくるという意味。材料は、その日あるもの。たとえば、ごまがあれば、「ごまクッキーをつくってみようか」といった具合です。

    季節の野菜がたくさんあればマリネにしてきれいに瓶詰めしてみたり、無農薬のレモンが手に入れば、はちみつ漬けにしたり。

    「いつも制作のことばかり考えているので、まったく別の手の動かし方をすることで、使っていない脳みそが動きだす気がします」

    保存食づくり

    画像1: 妻・直実さんの段取り

    この日つくったのは、セロリ、赤ピーマン、にんじん、かぶ、うずらの卵のマリネ。うずらの卵は小さくて皮をむくのが面倒だが、一緒につくっておくと、サイドディッシュとして食べごたえがあり、食卓に変化がつく。レモンのはちみつ漬けは、お湯やソーダで割って。

    アイデアノートを書く

    画像2: 妻・直実さんの段取り

    絵を描くことが好きで、美術系の高校に進み、大学で彫刻を学んだあと、自分でものづくりを始めた直実さん。最初は切り絵で灯篭などをつくっていたそう。いまでも、仕事のアイデアはもちろん、そんな胸の奥から自然にわき出す思いをアイデアノートに書き留めて、ものづくりの種をストックしている。

    休日らしく息抜きする日の過ごし方

    夫・喬彰さんの休日の楽しみ

    「ちょっと行ってくるわ」

    そういって、車に釣り竿とクーラーボックスを積み込み、車で20〜30分の海へ。工房のある兵庫・姫路市は瀬戸内海に面し、幼いころからこの地で育った喬彰さんは、おじいさまに連れられて、よく釣りに行っていたのだとか。いま使っている釣り竿も、おじいさまから譲ってもらったもの。

    メバル、カサゴ、スズキなど、季節によって釣れる魚はさまざま。

    「魚を釣ることも楽しいけれど、僕にとっては、釣り竿を垂れて、じっと海を見ている時間そのものが大事なんです。気がついたら2時間の予定が半日たっていた、なんてこともしょっちゅう」

    常に仕事のことで頭がいっぱいの喬彰さんにとって、釣りが唯一の、「からっぽ」になる時間なのかもしれません。

    釣りに出かける

    画像: 夫・喬彰さんの休日の楽しみ

    工房から車で20〜30分で海岸へ。休日には、少し遠出することもある。防波堤や消波ブロックの上に座って糸を垂れ、ひたすら海と向き合う時間を。「こんな環境に工房や自宅があることも、幸せだと思いますね」

    カフェで読書とパソコン

    夕飯が終わったあと、夜に「スターバックス」などのカフェに出かけて、パソコンで仕事をすることも。「僕にとっては、仕事も楽しみのひとつなんです。DMをつくったり、そんな時間が楽しいんですよね」と喬彰さん。場所を変えることで気持ちも切り替わる。

    映画を見る

    好きな映画のレンタルDVDをネットで予約しておき、時間があるときに見る。お気に入りは、アメリカ人学生とフランス人学生の出会いと別れを描いた『ビフォア・サンライズ』と、9年後に再会し、夕暮れまでのわずかな時間を描く『ビフォア・サンセット』。

    妻・直実さんの休日の楽しみ

    夕食を終えると、直実さんは紙とカッターを取り出します。

    「大学を卒業したあとに、まだ何者になるかも、どんな仕事をするかもみえていなかったころ、家の中で黙々とできることはないかな?と考えて、思いついたのが切り絵だったんです」

    実は大学の卒業制作も、鉄板を切り抜いて、残ったものを並べるという作品だったそう。「抜き出す」作業で生まれる形は、切り絵も同じです。でき上がった切り絵はポストカードに仕立てることも。

    わき出してくる思いのままに、手を動かす。仕事とは違うものづくりの時間は、直実さんにとって、なくてはならないもののようです。

    切り絵をする

    画像1: 妻・直実さんの休日の楽しみ

    アラン模様のセーターや植物など、身のまわりのものをモチーフに、絵を描いて、カッターで内側を抜いていく。残った部分と抜いた部分が織り成す模様が、美しい景色に。お世話になった人へ毎年プレゼントをする枯白のカレンダーに使ったこともある

    図書館帰りにクレープを買う

    画像2: 妻・直実さんの休日の楽しみ

    休みの日の午後には、図書館へ。好きな本を選んで読書三昧の時間を過ごす。その帰り道に行きつけのお菓子屋さんに立ち寄り、ぷるんとした形から勝手に「お尻」と名づけた生クリーム入りのクレープを買って帰り、ふたりでティータイムに食べるのも楽しみのひとつ。

    映画を見る

    田舎の風景が流れる映画が好き、という直実さん。とくにイタリア映画が好きで、郵便配達人の暮らしを描いた『イルポスティーノ』、最愛の妻のために墓を手に入れようと奮闘する男を描いた『ロザンナのために』などを。次々と場面が変わるものより、淡々とした物語が好き。



    <撮影/辻本しんこ 取材・文/一田憲子>

    枯白(こく)
    木工教室を営む父のもとで木工を始めた喬彰さんは大学でデザインを学んだのち、写真に興味をもちドイツに留学。直実さんは喬彰さんと同じ大学で彫刻を学び、卒業後、ワーキングホリデーでドイツへ。帰国後、ふたりで、時を経て美しくなる家具や小物をつくる「枯白」を立ち上げる。

    ※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです


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