写真について:この日は雨の翌日で、土が軟らかいので、機械を入れられず、手で刈る。除草剤を使わないためヒエも多く、稲刈りの前に雑草を刈る手間が増える。「土を踏む感覚が好き」というふたりの、この笑顔!
(『天然生活』2017年1月号掲載)
「彼は、ずっと実家暮らしの、のんびりした人。だから結婚後、生活のさまざまな考えをすり合わせるのが大変でしたね。長男の櫂(かい)を妊娠しているころから、家業をぼちぼち手伝うようになって、気づいたら、どっぷり。あるとき、いまは亡き祖母に、『ばあちゃん、私、嫁に来ても手伝わなくていいって聞いてたんだけど』っていったら、『私もそういわれて嫁に来た』って。ふたりで笑っちゃいました」
お弁当のおかずをつくりながら、ほがらかに語る瑞弥(みずや)さん。その横で、宏さんがお米を炊いています。ふたりの手は、いつなんどきも止まることがありません。5時半に起きて、湯を沸かし、その間に身支度をし、洗濯や洗面所の掃除をこなす。あうんの呼吸で分担しながら、幾つもの家事が同時に進行していきます。
健康な体を支え、料理の時短になる保存食を味方に
山崎家の朝は、とにかく大忙し。しっかり食べないと、日中、太陽の下での農作業を乗り切れないので、朝食は品数を多く用意します。
「こうやって並べると大変そうにみえるかもしれませんが、ごはんを炊き、味噌汁をつくって粕漬けのさけを焼くだけ。あとは、しょうがのつくだ煮など保存食ばかりなので、実は用意は楽なんです」農作業はふたりでこなすので、どちらかひとりが倒れても仕事が止まってしまいます。また、育ち盛りの櫂くん(9歳)、千穂(ちほ)ちゃん(4歳)もいます。健康は食事から、と考える瑞弥さんは、体が温まるしょうがや、カルシウムが豊富な切り干し大根などの乾物をさまざまな保存食にしてつくりおきし、忙しい朝を乗り切ります。
リビングの一角には、たくさんの梅干しのガラス瓶が並んでいます。これは、前年や前々年のものも少しずつ残しているため。
「3年以上漬けた梅干しは薬になると聞くので、毎年漬け、毎日食べます。もし自分がダウンしても、ごはんと梅干しさえあれば家族はなんとか食いつなげるかな、と」
梅干しひとつにも、母の知恵と思いが詰まっているのでした。
終日、やることが目白押し。農家の一日
昼間は空の下で。帰宅後は精米や梱包などの出荷作業を。農家の一日は想像以上に体力勝負の時間勝負です。にもかかわらず宏さん、瑞弥さんがあくせくしているようにみえないのは、なぜでしょう──。
05:30 起床
05:45 朝、夫婦で数分の打ち合わせ
起きたらまず、湯を沸かします。白湯を飲みながら、夫婦で、その日のスケジュールを確認。ほんの数分ですが、これがないと始まらない朝の儀式。洗濯機に洗濯物を入れて、1回目スタート。汚れやすい洗面所も朝食前にさっと掃除します。
05:50 体を温める炊きたてごはん
朝食はふたりでつくります
夫婦で手分けして、朝食とお弁当をつくります。「朝は、体が温まり、全身に元気がゆきわたるように、なるべく温かいものを家族に食べさせたい」と瑞弥さん。そのため、炊きたてのごはんと汁ものは欠かせません。すぐ使えるよう、ポットの水に昆布といりこ、どんこを入れただし汁を常備。
06:20 塩分、糖分。メリハリの利いたお弁当をつくる
お弁当は、疲労回復および、午後にもうひとがんばりするために、栄養たっぷり。塩分、糖分補給を重視した、しっかり味のついたおかずをつくります。短時間で多彩なおかずを詰められるよう、煮卵やつくだ煮、魚のオイル漬けや車麩のフライなど保存食が中心。こちらも夫婦の分業制で。
06:30 櫂くんを起こす
06:40 櫂くんと宏さんで朝食。瑞弥さん、洗濯物を干す
07:00 櫂くんの身支度を見守りつつ、鍋や食器を洗う。2回目の洗濯機スタート
07:20 櫂くん、登校。千穂ちゃんを起こす
07:30 千穂ちゃんと瑞弥さんで朝食。宏さん、2回目の洗濯物や布団を干す。器を洗う。千穂ちゃんの身支度をする
朝食は時間差で。夕食以上に重視しています
「夜は疲労で力が尽きていることが多い」(瑞弥さん)こともあり、夕食以上に朝食の献立にこだわります。今日は、五分づきごはん、ねぎ・わかめ・とうふ・おくらの味噌汁、小松菜のナムル、切り干し大根入り玉子焼き、かぼちゃのふくめ煮、プチトマトのマリネ、さけの粕漬け、水出し番茶。
08:00 あうんの呼吸で、できる人ができることを
洗濯、櫂くんの送り出し、千穂ちゃんの身支度なども、声をかけあいながら、宏さんと瑞弥さん、できるほうがやります。子どもたちにも朝食時にその日の大人の予定を伝え、櫂くんに「留守番をしといてね」とお願いすることも。今日の千穂ちゃんの幼稚園の送りは宏さん。車で送迎します。
08:10 お弁当持参で、いざ出発
お弁当を持って行ってきます!
田は、車で数分の場所と、1時間かかる遠方の2カ所。「田植えや稲刈りの繁忙期には手伝ってくださる方もいるのですが、暑さと作業がハードすぎて、続けて来てくださる方は希です」と瑞弥さん。
<撮影/村林千賀子 取材・文/大平一枝>
山崎 宏、瑞弥(やまざき・ひろし、みずや)
埼玉・吉川市で農家を営む。櫂くん、千穂ちゃんとの4人家族。農薬に頼らず、肥料も自然由来の有機物のみ。注文ごとに精米、梱包、出荷する受注販売が中心。米農家ならではの著書『お米やま家のまんぷくごはん』(主婦と生活社)もある。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです