(『天然生活』2017年1月号掲載)
山崎家の田は、農薬・化学肥料不使用のため、もちろん除草剤もなし。夏は雑草との闘いでもあります。
くたくたになって帰宅したあとも精米、梱包などの出荷作業があり、ビール好きの宏さんは「飲むと3口で寝そうになるので」、ふだんはほとんど飲まないとか。
そんな毎日を送るふたりの根底には、手間ひまかけたおいしいお米をひとりでも多くの人に伝えたいという願いがあります。
2015年9月。豪雨により鬼怒川が氾濫。稲刈り直前に、丹精込めた田は水に埋まりました。
「稲以上に、機械7台の全壊が痛手でした。買い直すには1200万円余の借金が必要で、リスクがあります。本気で廃業を考えざるをえない状況になったとき、何かできることはないかと、皆さんが連絡をくださったのです」
駆けつけたボランティアは約300人。山崎家のお米「ひなたの粒」を使った御礼の品付き応援金を募るプロジェクトや、チャリティキャラバンなど、さまざまな取り組みが展開されました。
「おかげでうちは、なんとか再起できましたが、周囲には廃業された方々が大勢います。とても喜べる状況ではありませんが、米づくりを続けていくことがなによりのお返しだと思っています」
稲刈りを終えると、ひと息つけるオフシーズンに。昨冬、瑞弥さんは気づいたことがあります。
「息子の皮膚科の通院に付き添った帰り、すっと彼が手を滑り込ませ、つないできたのです。あ、8歳でもまだまだ甘えたいんだな、片方の手はいつもあけとかなきゃいけないんだな、と知りました。そのときから、もう少し生活に軸足を置いて、家や子どものことにていねいに目を向けようとギアが替わりました」
田のリカバリーに無我夢中で、いつも何かに手一杯だった日々。これからは、少し荷物を下ろし、片手は家族のためにあけておこう、心に豊かな余白をもとう、と気づいた瞬間でもあります。
人生の時間割は、天気のように、子どもの成長や家族の変化によって、絶え間なく上書き修正されていくもののようです。
山崎さんの日中〜夜のスケジュール
08:15 田んぼで作業開始
2015年の豪雨で2mの浸水被害を受けた田は、たくさんのボランティアに支えられ、復活。無事、実りの秋を迎えました。今日は、あらかじめ雑草のヒエを手で刈り、来る稲刈りに備えます。互いに黙々と手を動かし、作業に集中するおふたり。
10:00 自家製梅ジュースで休憩タイム
こまめに休憩をとります
休憩も忘れて集中する宏さんに、瑞弥さんが「休もう」と声がけを。カルダモン、シナモン、グローブを加えたスパイスたっぷりの自家製梅ジュースで、ひと息。気つけ代わりでもあります。
12:00 田んぼで食べるお弁当は最高! 至福の時
お待ちかねの、お昼。「お弁当って田んぼで食べるのが一番おいしいし、幸せです」とのこと。瑞弥さんは、稲作はまだまだ修業中の身。このとき、いろんな疑問や質問を宏さんに投げかけます。ただし、食べたらすぐに立ち上がります。その理由は、「ほっこりしていると眠くなるから」
14:30 稲を天日干し。お米を追熟させます
刈った稲はわらで縛って、自宅の敷地内で15日間、天日干しをします。これを、はざ掛けといいます。山崎家では機械乾燥も行いますが、昔ながらの方法も。手間はかかりますが、天日に干すとお米が追熟され、甘味が増します。
15:00 帰宅。お茶とお昼寝で、ほっとひと息
シャワーを浴びて着替えたら和室で休憩します。
今日は、カルダモン、クローブ、八角、きび砂糖入りの梅ジュースで喉を潤します。
ハンモックでお昼寝をする宏さん。「汗をかくので、布団より通気性のいいハンモックのほうが昼寝には最適なのです」と宏さん。
休憩後、出荷作業
18:00 夕ごはんの支度、入浴
どちらかが料理をしている間に、手がすいているほうが子どもと入浴。
19:00 夕食
20:00 夕食後は出荷作業に集中
農協を通さず、受注販売が中心なので、受注の管理、精米、梱包の出荷作業も自分たちでこなします。計量したり、袋にオリジナルのラベルを貼ったり。就寝前にもう一度、入浴して、一日が終了。
01:30 入浴後、就寝
出荷作業で汗をかくので、もう一度、風呂に入り、自由時間に。宏さんは布団に横になった瞬間に眠りはじめる。瑞弥さんは録画したテレビ番組を見たり、読書をしたりする。
<撮影/村林千賀子 取材・文/大平一枝>
山崎 宏、瑞弥(やまざき・ひろし、みずや)
埼玉・吉川市で農家を営む。櫂くん、千穂ちゃんとの4人家族。農薬に頼らず、肥料も自然由来の有機物のみ。注文ごとに精米、梱包、出荷する受注販売が中心。米農家ならではの著書『お米やま家のまんぷくごはん』(主婦と生活社)もある。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです