(『天然生活』2013年5月号掲載)
なまり節 | 3月~
先人の知恵に理あり 松田美智子
なまり節は漢字で「生利節」と書きます。「生を利かせたかつお節」の語源どおり、生のかつおをおろして、蒸したりゆでたりした加工品のことです。足の早い魚の保存法として、江戸時代以降、盛んにつくられるようになりました。
なにしろ、「女房を質に入れても初鰹」と川柳で詠まれたほど、江戸時代の初鰹は高価だったとか。なまり節は、その貴重な魚を楽しむための賢いやりくりでした。
「そうした古きよき食べ物が、以前ほど食卓に上らなくなったのは残念なことです。実家では、祖父の大好物で、季節になると祖母がよくつくっていました。できたてがおいしいのはもちろん、2~3日たってからほぐして炒った、ほんのり甘いふりかけが好きで、お弁当に入っているとうれしかったのを思い出します」と松田さん。
きゅうりとの酢のものや煮つけが伝統的な料理法ですが、実はオリーブオイルともよく合います。熱したオイルをかけて密封すると保存性も高まり、トマトを合わせるなど、洋風にアレンジしてワインと楽しむこともできます。
「難しそうに思えても、工程は蒸すだけと、実は、手間いらずです。魚屋さんに三枚におろしてもらってもよいでしょう。今年の初鰹は、たたきだけでなく、なまり節でも味わってみてくださいね」
なまり節のつくり方
足の早い魚の保存法として生まれた、なまり節。素材に真摯に向き合う先人の知恵が、生とはひと味違う、かつおの豊かな魅力を生み出してくれました。
材料(つくりやすい分量)
● かつお | 三枚おろしの半身 |
● 塩 | 小さじ4 |
● しょうが(皮付きのスライス) | 12〜20枚 |
つくり方
1 かつおは中骨に沿って包丁を入れ背側と腹側に分ける。一度に切ろうとせずに、少しずつ包丁を入れるといい。
2 腹側のブロックは、さらに腹骨に沿って包丁を入れ、腹骨をすき取る。血合いや汚れなどもきれいに取り除く。
3 腹側、背側それぞれ1節を半分に切る。1/2節に塩小さじ1ずつをふり、15分ほどおき、なじませる。
4 竹のせいろに笹の葉を敷きつめ、かつおを皮を上にして並べる。しょうがを3~5枚、皮の上全面にのせる。
5 4のせいろを笹で覆い、蒸気の上がった鍋に重ね、ふたをして強火で15分蒸し、粗熱がとぶまでおく。
*日持ちは冷蔵庫で10日間くらいが目安です。
<料理/松田美智子 撮影/川村 隆 取材・文/小松宏子>
松田美智子(まつだ・みちこ)
日本料理をベースにした家庭料理の教室を主宰。鎌倉で育った子ども時代から身近だった四季の保存食づくりをベースに、現代の生活でも無理なくできる、季節の食の楽しみを提案。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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