• 東京・神宮前から岐阜・美濃に移住した、文筆家で「マーマーマガジン」編集長の服部みれいさん。移住して5年。小さな畑をしたり、お店を切り盛りしながら、いま服部さんが感じているのは「移住して、よかった!」ということ。今回は、都会での暮らしと美濃での暮らしの違い、田んぼや畑から得られる喜びについて、コロナ禍を経て、あたらしい暮らしを模索中のフラワースタイリストの平井かずみさんとイラストレーターの平澤まりこさんとともに語ります。

    「自分中心」の暮らし

    画像1: 「自分中心」の暮らし

    服部みれい(以下、服): 移住してきたばかりのころは、もうわたしの中で都市的なたのしみは味わい尽くしたという感じがありました。お金を使って得られる消費のたのしさにもちょっと疲れていたかもしれません。田舎でのたのしみって、お金を使わなくても得られるんですよね。

    平井かずみ(以下、か): 東京と美濃では、お金の価値も全然違いますよね?

    服:食べ物などをもらったりあげたりすることも多いし、あまりお金を使わないかも。隣に90歳代のおばあちゃんが住んでいて、もう亡くなってしまったんですが、お昼ご飯をお鍋ごともらったりしていました。近所に住む友人が夕飯のおかずを差し入れてくれたり、友人宅で急にごちそうになることもあって、家族が拡大して存在している感じがして、すごく気持ちがラクなんですね。そういったやりとりがいやだという人もいるかもしれないですが、わたしには新鮮でした。「孤独」がないですよね。インターネットで買い物するなど、東京にいたころと同じような暮らしもしているんですが、お金を介在しないたのしみによって豊かさのの幅が増えた感じはあります。美濃だと、お金がたくさんなくても暮らしていけるから、こころとからだにすごく余裕があるんです。

    画像2: 「自分中心」の暮らし

    か: 東京にいる人の大半は、家賃のために働いているというのはありますね。

    服: それをモチベーションにしてがんばろう、ということもあるのかも。

    平澤まりこ(以下、ま): わたしは昨年の夏、ドイツのベルリンに2か月ほど滞在したのですが、そのときに同じことを思いました。みんなお金は使わないし、「働く=やりたいことをやる」という人が多くて、稼ぐために働く、ということはしないんです。家賃もほかのEUに比べてだいぶ安いし、暮らしを大切にする考えがベースにあって、クオリティオブライフをとても大事にしていました。日本の田舎とも通じるものがあるのかな。

    服: たとえば最初、美濃のお店はすごくマイペースだなと感じました。観光客が多い土日に休んだり、食事のメニューが揃ってなかったり。いい意味で自分中心というか、家族や暮らしのペースのほうを大切にしてるという印象があります。それがヨーロッパみたいだなって……。

    ま: すごくいいと思います~。みれいさんも、だいぶ働きかたは変わりました?

    服: はい。本の発行が、どんどん遅れていってますね……

    か、ま: (爆笑)

    服: 合間合間に畑や田んぼ、梅仕事などの季節の手仕事、草刈りなどが入ってくるから、結構忙しいんですよね。わたしの中の優先順位もすごく変わりました。暮らしのこと、季節のことがあって、仕事は3番目かな。何におわれるってとにかく自然におわれるかんじです。

    画像3: 「自分中心」の暮らし

    畑に救われた

    服: コロナの影響ですっかり世の中が変わって、このあたりでも畑をやる人が増えました。そもそも畑だと外だし、ソーシャルディスタンスだし、悪いニュースを見ても、土をさわったり作物を育てていると不思議とストレスがない。今回ほど畑に救われたことはなかったですね。

    か: これで食料自給率が少しでもあがったら、最高ですよね!

    服: 本当に。環境とか自給率の側面からも、ひとりひとつ田んぼや畑をもって、みんなが半自給自足の生活になったらいい、ということはずっと言い続けてきました。でも、それ以上に、個人個人のしあわせのために、みんなが畑や田んぼ、土にふれる暮らしをしたら、もっともっと暮らしが潤う気がします。人間として、こころにあそびができて、その人のおもしろみがもっと出てくるんじゃないでしょうか。都会のマンションでも、ベランダに畑のようなスペースが設置されてたらいいのになって。そうしたら最低限の食べ物は確保できるし、余ったら交換することもできる。それがわたしの思う最先端の暮らしです。

    画像1: 畑に救われた

    か: みれいさんの畑は、どんどん進化していってるんですか?

    服: 父が野菜を育てることが上手で、どこか甘えてるのか、わたしの畑は野菜があまり育たなくて……でも、ハーブはよく育ちます! ハーブはみんな、ものすごく元気。

    か: ひとつの畑に野菜もハーブもあるんですか?

    服: そう、もうぐちゃぐちゃなんです(笑)。実際に畑を見ていただくとわかると思いますが、畑って本当にその人そのものになっていくんですよ! 畑には自分の思いがすごく反映される気がします。

    か: わ~、おもしろ~い! 畑や田んぼのつくりかたを知らなくても、本など読まなくても、植えてしまえば土にあう子は育つし、あわない子は育たないだけですよね。

    画像2: 畑に救われた

    服: 畑については父に少し習った程度なのですが、なんとなくどうしたらいいかがわかるし、自分に必要なものが生えてくる、ということへの信頼も厚いです。たとえば、今年はスギナがすごく生えてきたんですね。スギナは雑草でみんな嫌がるけれど、これも何かのメッセージかなと。で、全部刈って、お茶にして飲んでます。去年やおととしは、赤紫蘇がたくさん生えたんですが、今年は全然出てこなくて。だから今年は、梅干しに赤紫蘇を入れるのをやめました。畑には言語化できない語らいがたくさんあって、そこからメッセージを受けとったりして……なにものにも変えがたいなあと感じています。

    画像3: 畑に救われた

    か: 畑にいると、だんだん感謝の気持ちでいっぱいになって、泣きそうになります。

    服: わかります!! 数年前、まだ仕事に追われていたある日、「もういやだ~!」と仕事場から飛び出して、畑に行ったことがあって。作業をはじめたら目の前にぷわーんとものすごくゆっくり虫が飛んでいくのを見て、「あれ、わたし、何やってるんだろう」って。人間の頭で考えてできることって、すごく偏っていて少ないのかもしれないですね。今回のコロナによる世界の大変化も、田舎の人はわりあい対応できている気がします。畑や田んぼをやっている人も多いから、天候によって予定が変わったり、当日ギリギリにやることが決まったりと、臨機応変に動くことには慣れてるんだと思います。

    ま: 流れをみながら動いたほうが、逆にタイミングもあいやすくなる気がしますね。

    服: アポなし訪問も普通ですしね。これからはそういう世界になっていくのかな。

    田んぼにはjoyしかない!

    服: 田んぼの作業を10人ぐらいでやると、本当に感動しますよ。本にも書いたんですが、「結(ゆい)」といって、誰も指示せずに、誰も指示を受けずに、それぞれが自分の仕事を見つけて動くんです。それが本当に見事! 力が強い人は荷物を持つ、こまかいことが得意な人はこまかい作業をする、体が弱い人は木陰でぼーっとしてる。気を使いあうということがなくて、みんなバラバラだけどひとつ、っていう感じになるんです。

    画像: 田んぼにはjoyしかない!

    か: ふだんの仕事でも、いいチームだとそうなりますね。何も指示しなくてもそれぞれが仕事を見つけて、わたしはぼーっとしています(笑)

    服: 確かに! 特に、自然の中ではその状態になりやすいかも。わたしたちがやっている田んぼは、生活のためじゃなくて、たのしみのためだけにやってるから、joyしかないんです。田んぼは、畑とはまた違って、至福感が高い気がします。

    か: 田んぼ、やってみたくなってきたなあ。生き物として、人間として、自分で食べ物を作って暮らしていくことの充実感や多幸感を感じてみたいです。

    服: 田んぼには、心地いいという言葉を超える安心感というか、安堵感があるかな。一度やってみたら、この言葉にならない喜びをきっと感じられると思います!

    ま: 労働でありながら、エンターテイメントでもあるんですね。

    服: 昔、「やらなければ」と田んぼをやった方々の中にはつらい思い出しかない方もいます。でもたのしくやる田んぼには至福感がある。小さい規模だからのよさもありますし、移住組だからこそ、新たなたのしみを発見しやすいのかもしれないですね。

     
    次回、座談会その3|コロナ後の暮らし、移住する方へのアドバイス……につづきます




    〈取材・文/アマミヤアンナ〉

    服部みれい(はっとり・みれい)
    岐阜県生まれ。文筆家、詩人、『マーマーマガジン』編集長。2008年春に『murmur magazine』を創刊。2010年、冷えとりグッズと本のウェブショップ『マーマーなブックス アンド ソックス』をスタート。2015年春、岐阜・美濃市に編集部ごと移住。同年8月には『エムエムブックスみの』オープン。2020年7月に扶桑社より、リアルな移住記録をまとめた『みの日記』の増補改訂版が発売。2020年9月には4年ぶりとなる『まぁまぁマガジン』23号(エムエムブックス)発売予定。
    服部みれい公式サイト
    http://hattorimirei.com/
    エムエムブックス
    http://murmurmagazine.com/

    平井かずみ(ひらい・かずみ)
    フラワースタイリスト。「ikanika」主宰。「cafeイカニカ」を拠点に、花の会やリース教室を全国各地で開催。雑誌や広告、イベントでのスタイリングや、ラジオやテレビなど多方面で幅広く活躍中。著書に『花のしつらい、暮らしの景色』『あなたの暮らしに似合う花』(ともに扶桑社)、『フラワースタイリング ブック』(河出書房新社)、『季節を束ねるブーケとリース』(主婦の友社)などがある。
    http://ikanika.com/

    平澤まりこ(ひらさわ・まりこ)
    東京生まれ。イラストレーター、版画家。セツ・モードセミナー卒。著書に『イタリアでのこと』(集英社)『旅とデザート、ときどきおやつ』(河出書房新社)ほか。絵本に『森へいく』(集英社)、『しろ』(ミルブックス)など。銅版画で手がけた『ミ・ト・ン』(幻冬舎文庫、小川糸との共著)がある。8/22から高知のギャラリーM2で「六人六様」展に参加。
    https://www.instagram.com/mariko_h/


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    服部みれいさんの『みの日記』が、7/17(金)に、扶桑社より発売されました。

    会社ごと岐阜・美濃に移住した服部さんの美濃での暮らしを記録した連載(『天然生活』2016年1月号~2018年5月号に掲載)をまとめた一冊に、2020年にみれいさんが考える新しい生き方など、新たなエッセイや記事を加えた増補改訂版です。
     
    天然生活の本『みの日記』(服部みれい・著)
    天然生活の本
    『みの日記』(服部みれい・著)

    天然生活の本『みの日記』(服部みれい・著)

    A5判
    定価:本体 1,300円+税
    ISBN978-4-594-08548-3



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