自然の営みに寄り添う暮らし
立山町鋳物師沢(いものしざわ)というすてきな響きの古い集落で始まった新しい巣巣。
昭和40年に建てられた、しっかりとした作りの木造の家をリノベーションしてお店にしています。
160坪の敷地には、建築当時に造成された立派な和風庭園があります。
巨大な庭石やツツジなどいろいろな種類の植栽、石の橋がかかったとても大きな池などが、家の中から美しく見える設計で配置されています。
こんなに広い庭と木々を持つというのは初めての経験。植木の手入れについての本を読んで、実践しようと思うのですが、草取りすら追いつかないという状況に。
今年は一年目ということで、季節の移ろいとともに地面から次々に出てくる草花の様子をみつつ、できる範囲で取り組んでいこうと思っています。
ということで手入れ不足でかなりボサボサな庭なのですが、それでも造園当時の設計と前所有者の長年の手入れがとてもよかったため、目にも美しい緑でお客さんにも楽しんでもらっています。
庭からは思いがけずいろいろな季節の収穫がありました。4本の梅の木から採れた20キロの梅で、梅シロップ、梅酒、梅干し作りを。梅シロップにした梅の実も、取り出して梅ジャムに。
暑い日の草取りの後で飲む、梅シロップのソーダ割り。天然のクエン酸たっぷりの梅シロップの美味しさに開眼しました。
来年は梅シロップの仕込みをもっと増やそうと思っています。この梅シロップや梅ジャムは店内のカフェでも、ソーダ割りやパフェで提供しているので、ぜひお試しください。
山椒の木も何本かあり、春には実を採って醤油漬けを仕込みました。山椒のピリッとした風味が醤油に移り、チャーハンや冷奴などにぴったり。やみつきです。
小さな一本の山椒の木でも、とても採りきれない量の実がなりました。秋から冬にかけて赤く色づく山椒の実は、鳥が食べに来るそうです。これもまた楽しみです。
山椒は、落ちた実から芽が出て育ちやすいらしく、あちらこちらに小さな苗木が何本か出ています。
8月に入ってからは、敷地中にはびこる茗荷の根元に、ぷっくりととても大きな茗荷の芽が出てきました。はじめのうちは気がつかなかったのですが、黄色の花が咲いて目に入りました。
それからはせっせと収穫をして、酢漬けや、梅酢漬けにしたり、家族や友人に送ったり、刻んで薬味としてたっぷりと楽しんでいます。
品種の違いか、普通にスーパーで売っている茗荷よりもかなり大きく、花が咲いてもスカスカになっていません。
家人が始めた庭の小さな菜園からは、夏の間に食べきれないほどのトマトやインゲンが採れました。
裏庭の大きな柿の木や、近くには栗の木もみのり間近になり、家の周りの田んぼも収穫に向けて稲穂が色づき始めてきて、これからの季節もとても楽しみです。
こうして、3月下旬からにわかに始まった私の自然に近い暮らし。私たちヒトも、本当ならば自然な存在のはずなのに、都会での生活はなんと自然とはかけ離れていたのだろうかと思い至りました。
ここでは周りは農家の人も多く、親しくなった人たちがたくさんいます。みなさん朝早くから畑や田んぼに出て、日々土に触れ、お日様の下で体を動かし、80過ぎている人でもとても元気で、こころ穏やかに、現役で働いています。
長い年月の間、天候の変化や、植物の成長を見守りながら暮らしてきた方々からたくさんの刺激をもらっています。
ヒトの暮らしが健やかであることは、自然環境も健やかであることに通じるように思います。
いきなり大きな変化は難しくても、早寝早起き、身体を動かす、太陽の光を適度に浴びる、新鮮な野菜や豆、魚介中心の食生活など、すぐにも始められる自然を意識した暮らしを取り入れ、日々健やかに暮らしたいものです。
岩崎 朋子(いわさき・ともこ)
巣巣店主。世田谷区等々力で16年続けた家具と雑貨の店を2018年に閉店し、2020年6月富山県立山町で再オープン。New巣巣は雑貨を中心としたお茶も飲めるお店。バンド「草とten shoes」リーダー。
<撮影/池田あかね(プロフィール写真)>