初秋の「夏けんちん汁」
今年は長い梅雨でした。そこでじわじわと家計に響いてくるのは、野菜の値段です。
うちは有機の農家さんにお願いして、内容と金額をうまく調整してくれるのでありがたいのですが、台所を預かる方々からは「白い食べのものしか買えない……。」と聞きました。
私の周りは、基本的には男女関係なくフルで働いている家族が多く、そしてこんなご時世なのでパパさんが在宅でママさんは会社にという家庭も少なくありません。
よくスーパーで会うパパさんからは、「白い食べ物は優秀! 野菜が高い時期だってもやし、きのこ、豆腐は価格が安定してるから、多少上がったって値段を見なくてもショッピングカートに入れられるから良い! そしてカサ増しにもなるし!」と。
『男子厨房に当たり前にガッツリ入ってます! だからといって男の料理ではありません』オーラを感じる買い物姿に、食べることしか趣味がない私は何も考えずにあれこれ買いたがるので、吟味して買い物しているそんな後ろ姿を見ていつも関心しています。
そんなパパさんと、長雨とお盆があけた8月終わりに違う八百屋で出会うと、自転車の後ろに箱を上手に積んでいました。「トマトがそれは安いんだ! 白いのもいいけどやはり夏の色した野菜はいいね」と、カゴいっぱいに野菜を入れて笑顔で帰っていきました。
それは私も買わねば! と、釣られて一箱ではないけれど、半ダースほど袋につめてもらいました。八百屋さんも、「やっと日照時間が長くなったからトマトが出てきた、今年は遅くて旬がずれちゃったよ。トマトなんかさ、年中あるけどやっぱ路地ものを食べないと夏じゃないよね」と、ニコニコ顔。
完熟だけじゃなく少し若いのも入ってるがそれはそれで私は好きなので、自転車の振動でトマトが潰れないように静かにペダルを漕ぎ、わさわさ揺れるトマトにドキドキ・ワクワクしながら坂を登りました。
家について袋を開けると、セーフ……潰れていない。昨年から家の片付けをしていて、冷蔵庫を一人暮らしの学生サイズにしたためいろいろ詰められないので、買ってきたらなるべくすぐ処理して加工しておくことにしています。
硬いトマトは、夏けんちんにしよう。
我が家の代表料理といえばけんちん汁と胡麻豆腐です。冬の根菜類たっぷりの体を温めるけんちんもおいしいですが、酷暑のいま、体に合いません。
けんちん汁の定義は「ごま油で炒めてしょうゆで味をつけた汁」で、温かくても冷たくても良いじゃないか、とよく父が話していました。精進料理はガチガチにかしこまっているイメージですが、じつは自由なのです。
春夏秋冬おいしいけんちんがあっても良いですよね。
さあ、肩の力を抜いてつくろう。
干ししいたけを水につけて(水600mlに干ししいたけ2個)、冷蔵庫へ。前日に下準備をしておきます。
鍋にごま油を大さじ1入れて弱火で熱しておく。もう額に汗が吹いてくる。
硬めのトマトを2個、8等分のくし切りにする。
夏の我が家には欠かせないきゅうりの漬け物を1本分1cmの半月に切っておく。
豆腐を半丁水切りをしておく。
香りがたってきた鍋にトマトを入れ、軽く炒める。硬いトマトがいい感じ。ここをやわらかいトマトに変えてもおいしい。とろみがつくのでそれも良い(私は硬いトマトが好きなので、見つけるとついつくってしまいます)。
トマトがしんなりしたら、きゅうりの漬け物を入れ炒め、大さじ2くらいのしょうゆを混ぜ入れて軽く炒める。
冷蔵庫には前日水につけておいた干ししいたけから、いい感じにだしが出ている。鍋に、その干ししいたけのだしを600ml入れて煮立て、味見をして旨みが足りなかったら酒、塩味が欲しかったら塩をぱらっとして、水切りをした豆腐をくずし入れる。
沸騰したら火を止めふたをして少し放っておく(しょうゆで炒めたトマトやきゅうりから旨みが出てくる)。
あら熱が取れたら冷蔵庫で冷やす。
だし汁に使ったしいたけは甘辛に煮ておくと重宝します。
水けを軽くしぼってスライスする。使えるところまで薄切りにして(石づきまでしっかり捨てないで使うのが我が家流)、しょうゆ、みりん、しいたけを合わせ甘辛く煮つけておく。
小分けにして冷凍しておくと大変便利です。ちらし寿司・あえもの・そう麺などに添えると素晴らしく口福な味になるので割と常備しています。
冷やしておいたけんちん汁を器に盛り付け、千切りのしそや、薄切りにした柑橘類、さっとゆでた菊などをのせていただきます。
しっかり味が染み込んだ甘辛干ししいたけを添えてもおいしいです。淡い夏向きの味によく合います。
夜になると秋の虫が鳴くようになりました。もう暦の上では秋ですが、食卓はまだまだ夏色。
皆さま、油断せずご自愛を。
藤井小牧(ふじい・こまき)
東京・秋葉原にある「カフェ風精進料理 こまきしょくどう」店主。臨済宗僧侶であり、精進料理家としても知られる藤井宗哲氏と、精進料理家の藤井まり氏との間に生まれ、幼いころより精進料理とともに育つ。現在はお店に立つかたわら、東京の生産者・加工業者を応援する活動「メイドイン東京の会」にも参加している。著書『こまき食堂』(扶桑社)が発売中。
ホームページがリニューアルしました。
こまきしょくどう 鎌倉不識庵
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ウェブショップもできました。
こまきしょくどう商店
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