「台所」で旅気分
20代半ばから精進料理の基礎的なことや調味料の使い方を教えたりと、国内外とお呼びいただいてきました。
スマホがない時代から地図を片手に、味噌やしょうゆ・みりんを背負って、度胸だけでひとりで出かけ歩いてきましたが、子どもが少し大きくなるとなかなか海外に行けないので、家族旅行と称して国内の調味料・酒蔵などへ出かけております。
その土地の郷土料理や、食の歴史背景を学ぶことで「この手がおいしいものをつくるのか」「この木桶だから菌が活発になるのか」と、おいしいだけじゃない魅力を知ることができます。
北前船(*1)や黒潮文化(*2)、廻船問屋(*3)が全国各地の文化の点と点を結ぶことに一役買って新しい文化が生まれたように、船のごとく流れ流れてその土地に行かないとわからないことがあるのです。
今でも大事なライフワークとなっています。
*1
江戸時代から明治時代にかけて北海道と大阪の間を、日本海の沿岸諸港に寄りながら往来した廻船。
*2
遠くフィリピンから太平洋を北上し、日本列島の南岸に沿って、房総半島沖を東に流れる黒潮の影響を受け、漂着・漂流する文化。
*3
海岸や港で、廻船などの商船を対象として積み荷の取り扱いを行った問屋のこと。
ただ最近は出かけられない。世の中みんな出かけづらい。なので私はもっぱら「台所ジャーニー」をしております。
今まで出会ったり訪れたメーカーさんの歴史や由来を調べて、改めてテイステイングしてみたりと小さな旅気分を味わっています。
京都亀岡の京白味噌
そんななか、友人の自然食品やさんからシェア発注の連絡がありました。
なかなかお客さんも少なく使いきれないので、ご縁のあるお店とシェアして仕入れをしています。
とくに色が変化しやすい白味噌は、少ない量を頻度よく買うにはこの方法だと大変助かります。
白味噌を含む米味噌系は、糖度が高いので発酵しやすく褐色が進みやすいので、品質に問題はないのですがなるべく早く使いたい味噌です。
私が買っている京都亀岡市にある「片山商店」の京白味噌は、代表的な白味噌と比べ甘さが控えめで、白砂糖などを使わない味覚の人にはとても使いやすいです。
米麹が多く入っているので、色も時間が経つと少しずつ濃くなっていきます。そこは色が白いうちに使うか、変化を楽しむか、使い手が上手に付き合っていくと愛着がわくのがまた良いなあと思っています。
よく味噌の種類を表現する時に「米は甘味、豆は旨味」といいます。
米と豆の割合の違いでその味噌の性格が変わってきます。
地域性が強いので白味噌にあまりご縁がない方もいらっつしゃると思いますが、ぜひ一度試してみて欲しいです。
米麹の割合が大豆よりも多く入ったものが白味噌となるのですが、白味噌は甘味が高いのでデザートに使用したり、あえもののあえ衣のベースに使うと味に深みが出ます。
冬に使う味噌のイメージがある方も多いと思いますが、我が家では子どもの頃から使っていたので冷蔵庫に常備しているものでした。
「あえ混ぜ」というものを、よく父がつくってくれました。
◇ ◇ ◇
なすのあえ混ぜのつくり方
1 ボウルに白味噌を大さじ2、酢大さじ1・煮切りみりん大さじ1を混ぜ合わせ、これをベースに野菜を混ぜていく。
2 なすの皮をむいてへたを落とし、くし切りにする。4人分くらいなら1本でよい。
3 ボウルに水を張り30分ほどつけておき水が茶色くなったら一度水を換え、今度はお酢を入れた水につける(2回水を換えるのは、この後なすを蒸すときにきれいに蒸し上がるため)。
4 酢水から出したなすを蒸し器に入れ柔らかくなるまで蒸す(なすは水分が多いので蒸しすぎないこと)。
5 冷ましてから縦方向に4分割くらいに手で割いてからひと口大に切り、軽く塩をふり置いておく。
6 油揚げ1/2枚、まいたけ1パックを小分けにしてオーブントースターで焼く(まいたけの表面から軽く水分が出て、油揚げがカリカになるまで)。
7 なすを軽く絞り、油揚げは細切りにして、まいたけとともに先ほどつくった白味噌のあえだれのボウルへ入れ、菜箸であえ混ぜ、ラップをして冷蔵庫へ。
◇ ◇ ◇
あら熱が取れたら、全体がしっとりとして味がなじみます。これがおいしい。
温かいお酒が合う一品です。
つくりすぎて翌日に持ち越すとベタっとしてしまうので、多くはつくりません。
つくり置き惣菜も忙しい日々には助かりますが、これは食べ切る量だけがおすすめです。
白味噌は甘く優しい衣を着せてくれる調味料です。
甘過ぎない白味噌があれば料理の幅が広がりますので、ぜひ使ってみてください。
冷蔵庫で乾燥してカピカピにならずに使い切れたら、いい距離感で仲良くなれたお友達のサインです。
藤井小牧(ふじい・こまき)
東京・秋葉原にある「カフェ風精進料理 こまきしょくどう」店主。臨済宗僧侶であり、精進料理家としても知られる藤井宗哲氏と、精進料理家の藤井まり氏との間に生まれ、幼いころより精進料理とともに育つ。現在はお店に立つかたわら、東京の生産者・加工業者を応援する活動「メイドイン東京の会」にも参加している。著書『こまき食堂』(扶桑社)が発売中。
ホームページがリニューアルしました。
こまきしょくどう 鎌倉不識庵
https://www.kamakura-komaki.com/
ウェブショップもできました。
こまきしょくどう商店
https://gomagomagohan.stores.jp/
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