• 世田谷で2018年まで営業し、2020年6月末に、富山県立山町に移転オープンした「巣巣」。店主の岩崎朋子さんは、新しい土地に馴染みながら、新しいお店づくりを始めました。岩崎さんがつづる、富山の巣巣のこと。今回は、最終回を迎えて、新しい土地での1年と、これからの生き方 について、岩崎さんの言葉で語ります。

    巣巣が富山県立山町で再オープンしてまもなく1年が経とうとしています。あっという間にここで四つの季節を経験しました。コロナ禍でいろいろな制約がある中での営業でしたが、かえって自分が本当にしたいことに集中して店がやれてきたのではと、この一年をふりかえって思います。

    この一年をふりかえって、思うこと

    移転を決めて等々力の巣巣をクローズした時から、次はこういう感じで新しい巣巣をやりたいなという妄想がありました。

    いざ移転先を探そうかというタイミングで、たまたま家人が富山県に転勤になり、たまたま出会った方から繋がったご縁で、その妄想にピッタリとあうような立地と佇まいのこの立山町の昭和の家に出会うことができました。

    思い切って新しいことに挑戦したことで、偶然が次々重なり必然を生んだのでしょうか?

    画像: 庭の池の補修が続いています。完成はいつになるのでしょうか?

    庭の池の補修が続いています。完成はいつになるのでしょうか?

    新しい巣巣をどんな店にするか、その方向性については、「ゆっくりお買い物をしながら時間・空間を楽しんでもらえるような店を今回は作りたい」という気持ちが移転前からありました。

    コロナ禍ということで混雑回避のために已を得ず予約制でスタートしたのですが、一度の入店者数が少なく、来てくれたみなさんにお買い物と同時に時間・空間を楽しんでいただくことに繋がりました。

    こうした試行錯誤の一年間で、新しい巣巣と私自身がこの場所に徐々に馴染み、理想の店作りをしてこれたように思います。

    巣巣に来てくれる新しいお客さんやご近所さんとの出会い、庭の草花や周りの田んぼや山の四季の移り変わり、自然の中で生きる鳥や虫たちの姿。

    そういった日々のことを通して実にたくさんのインプットがありました。

    そうしたことをゆっくりと頭の中で考えて、この連載でアウトプットできたのも、良い体験になりました。

    自然の循環を感じる、立山の暮らし

    ここ立山町で少し自然に近い暮らしをはじめて一年。

    日々土や草木に触れることで、自然の循環に不要なものは一つもないということに気がつきました。去年この家を引き継いでおそるおそる庭仕事を始めた時、草を抜いていたら、溜まった落ち葉などの下に、真っ黒な5、6ミリくらいの無数の芋虫の塊がありました。

    2、30匹が固まっていて、それがもぞもぞ動いて見るからに気持ち悪いし、びっくり仰天してしまいました。しかしその後調べて見ると、その虫たちは落ち葉を分解して土に還しているそうなのです。

    一見気持ち悪いなと感じてしまうような虫の存在も、自然の循環の一端を担っていたのでした。

    画像: 栗の花が咲いています

    栗の花が咲いています

    画像: 今年は梅が大豊作。梅シロップをたくさん仕込みました

    今年は梅が大豊作。梅シロップをたくさん仕込みました

    草も木も春になると太陽の光と水と空気中の炭素をつかって、芽を出し、葉が茂り、夏は青々とした状態が続き、光合成によって酸素を放出します。

    やがて秋から冬になって、葉が落ちたり枯れたり。地面に落ちた葉は、虫や微生物の力で分解されいずれは土になります。

    地球上のすべての生き物がこの循環の輪の上にあって補完し合いながら、完璧なるハビタブル空間を形成していたのですね。地球環境それ自体が、一つの生き物のように。

    人がこの星で生きていく、という意味は?

    画像: 夕陽に照らされた北アルプス

    夕陽に照らされた北アルプス

    そして私たち「人」がこのパーフェクトな星の中で、生きているという意味を考えずにはいられません。

    前回の第九話からもつながるのですが、一人一人の人にはそれぞれに役割があり、皆が楽しみながらそれぞれの役割を自分の力でまっとうしていくということが個々の生きる意味なのではないだろうか、と書かせていただきました。

    そうして一人一人が成長しながら、生きることを楽しんで、生き続けるのだと思うのです。

    人間が生きていくためには、社会が絶対に必要ですし、社会を作るということはすでにクリアされています。

    社会が成長して、よい社会になっていく。個人個人だけではなく、人間という種も同じように、社会全体でも成長しながら生き続けていくというところに、この星の上で「人」が生きている意味があるのではないでしょうか?

    みながよく生きる。
    全体としての、社会としての成長、ステップアップを目指す。

    人口が爆増し、寿命も格段に伸びた今、個人個人に内在するただ生き延びるための、プログラミング(のようなもの)を書き換えて、人間全部が、社会として楽しく意味を持って皆で補い合って生き、暮らしやすいよい社会を皆で作り、皆で成長するというプログラミング(のようなもの)にアップデートする時が来たのだと思うのです。

    自然の循環を身をもって知ることで、人間社会も一つの成長する生き物でもあるのだと感じたのでした。

    地球全部、人間全部、というとあまりにも単位が大きすぎるかもしれませんが、自分自身と自分の10m周りにいる人たちが楽しくなるような暮らしを心がけるところから初めてみるとよいのではないでしょうか。たくさんの人がそう思うようになったら、割と簡単に一気に社会も成長して、互いを尊重し、全員で補いあえる、暮らしやすいよい社会ができ上がり、そして続いていくと信じます。

    最後まで読んでいただいてありがとうございます。

    ちょうど一年という節目でこの連載が完結したのもよい区切りになりました。


    画像: 人がこの星で生きていく、という意味は?

    岩崎 朋子(いわさき・ともこ)
    巣巣店主。世田谷区等々力で16年続けた家具と雑貨の店を閉店し、2020年6月富山県立山町で再オープン。New巣巣は雑貨を中心としたお茶も飲めるお店。バンド「草とten shoes」リーダー。
    https://www.susu.co.jp/
    富山県立山町鋳物師沢201−6



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