• 広島県は尾道市。美しい瀬戸内海が一望できる小高い丘の上でご両親、ロバ6頭、ヤギ2頭、ヒツジ3頭と暮らす写真家の田頭真理子さん。家畜やペットとしてではなく、家族として動物たちと暮らす日々を写真とともにお届けします。

    父の夢だった、日常にロバがいる生活

    9年前、私の父は広島県尾道市にある自宅に1頭のロバを迎え入れました。

    シュッとした顔立ちにピンと立った立派な耳、産毛の残った前髪がおかっぱ頭のように整えられたチャーミングなロバさんがとことこ父と散歩する姿は、これまで犬や猫しか飼ったことのない私にとって、不思議な光景でした。

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    父はその雌のロバを「プラテーラ」と名付けました。

    スペインの作家ファン・ラモン・ヒメネスの書いた散文詩『プラテーロとわたし』の世界に共感していつかはロバとの暮らしを、と夢見ていたそうです。

    2012年春、瀬戸内海の見渡せる丘の上で(私と)両親、ロバのプラテーラの暮らしが始まりました。

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    1歳のプラテーラはまだまだ子ども。寂しがりやで父と母にすり寄ってきます。

    父が食べようともいだプラムをプラテーラも欲しがり一緒に食べます。母が庭で草むしりをしていたら、プラテーラも側で芝刈りを手伝ってくれます。

    近くの山へ散歩にでると、プラテーラはうれしくて走り出します。

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    ときには父と取っくみあってじゃれ合ったりもします。まだ子どもとはいえロバは力持ち。父も本気で相手をしないと押し倒されてしまいます。

    西の空が真っ赤に染まる時間まで父と戯れられた時はプラテーラも満足気。

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    でも日が暮れてしまうと父と母は家に入り、プラテーラは小屋へ帰ります。ひとりぼっちになるのが嫌なようで、小屋に入る時はいつもぐずります。

    道の真ん中で止まったら、もう大変。大人がひとりで身体を押しても動きません。二人掛かりでようやく小屋まで連れて行くと、ちょっとしょんぼりした顔をするのです……。

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    間近でロバと触れ合い、ともに時間を過ごすと実に表情が豊かで感情にあふれていて「人間と同じだなぁ」と共感します。自然の中で快適に暮らす知恵や歓びは、むしろ人間より持ち得ているようにも思います。

    春先は山菜や新芽の青草を喜んで食べ、梅雨になると小屋でじっと雨が止むのを待って、夏の暑い時季には風の通る木陰で涼み、秋は木の実をたくさん食べてお腹に蓄え冬に備え、真冬の晴れた朝には太陽の光をたくさん浴びて身体を温めます。

    ロバとの暮らしは、季節の微妙な移り変わりを気付かせてくれます。よく遠くを見てぼーっとしているような姿を見かけますが、実は私たちには感じられないような研ぎ澄まされた感性で物事を見据えているのかもしれません。

    大きな耳を澄まして……。

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    田頭真理子(たがしら・まりこ)
    広島県尾道市出身。高校卒業後、写真家立木義浩氏と出会い写真家を志す。客船「飛鳥」船上カメラマンを経て、2005年キヤノンギャラリーにて初の個展「mobile sense」開催。その後フリーランスフォトグラファーとして活動を開始。2012年より尾道の実家で家族がロバを飼い始め、ロバと家族の暮らしを撮り始める。現在は、尾道と東京を行き来する2拠点で活動中。
    https://marikotagashira.com/



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