• マルシェやイベントで人気を集める、円卓(えんたく)のお弁当。つくり手の庄本彩美さんは看護師として働く中で、食のおもしろさに気づき、転身しました。食べれば伝わる、ていねいな仕事。どうしてお弁当だったのか、おいしさの理由を知りたくて、お話をうかがいました。

    食べればわかる、ていねいな仕事

    一品一品、ていねいに仕事がしてあるのが伝わってはじめて食べた時、はっとしました。お弁当といえば濃く味付けされたものが多いけれど、円卓のお弁当は違います。下ごしらえからきちんと手をかけて、素材の持ち味を生かした、淡味。お弁当でここまでしている人、なかなかないんじゃないだろうか。

    つくり手の庄本彩美さんは、もともと看護師。そんな経歴も気になって、どうしてお弁当だったのか、どんな思いでつくっているのか、聞いてみたくて、町家をリノベーションした自宅兼アトリエを訪ねました。

    画像: アトリエのカウンターに立つ、庄本彩美さん

    アトリエのカウンターに立つ、庄本彩美さん

    看護師から、食の道へ

    看護師として長らく総合病院に勤めていた、庄本さん。症状の重い病棟を担当していたこともあったそうです。栄養管理を担当する中で、あらためて気づいたのが食の大切さ。

    「カロリーさえあれば、元気になるというものではない。患者さんを見ていてつくづくそう思いました。美味しく楽しく食べてこそ、人は元気になる。味付けも、盛り付けも、元気をつくるために、とても大事。「食」っておもしろいなと思いました」

    庄本さんは山口県出身、ご実家は兼業農家。おばあちゃんは畑仕事しながら、なんでも手づくりしていたそうです。

    「手前味噌ならぬ、手前保存食が台所にいっぱい。トマトの季節は、そればっかりが食卓に出てきて。当時は、それがあたりまえだったけれど、実家を離れてはじめて、そのおいしさ、ありがたさに気づきました」

    画像: 出汁巻、胡麻豆腐、おから。切り干し大根など、一品一品がていねいにつくられている

    出汁巻、胡麻豆腐、おから。切り干し大根など、一品一品がていねいにつくられている

    食の仕事がしたい。そう思い立ったのはおばあちゃんの存在も大きかったと言います。活動のはじまりになったのは、お弁当。

    「病院は激務なのに、忙しいあまり、多くの人がお昼はコンビニ弁当やインスタント食品ですませている。そんな現状を見てきたこともあったかもしれません。これまで料理の仕事をしてきたわけではないし、いきなりお店をしても来てもらえるとも思えなくて、お弁当ならイベント出店からはじめられるとも思ったんです」

    感覚を使って、素材と向き合う

    看護師として働きながら、料理教室で学び、友人を招いては自宅のちゃぶ台で振舞って、経験を積みました。中でも影響を受けたのが、料理家の森田久美さん。

    「森田先生からは、“感覚を使うこと”を教えてもらいました。料理するとき、素材がいまどんな状態か、常に感じながら向き合いきます。たとえば、ほうれん草のおひたしをつくるとき。お湯の状態はどうか、ふつふつと熱すぎないか、鍋肌に当たっていないか。自分の手、包丁がどんな状態か、どんなふうにほうれん草にふれているか。ひとつひとつ、考えながらやるんです。たくさんの量をつくるときでも、できるかぎり。

    そうすることで、茹ですぎることなく、均一に火が通って、口に入れた時の、気持ちいい歯触りになる。結果、それがおいしさになるのだと思います」

    画像: はじめていただいたときの、ちょっと豪華な牛しぐれ弁当

    はじめていただいたときの、ちょっと豪華な牛しぐれ弁当

    「目を閉じて食べました」「こんなお弁当、はじめてです」……。食べた人からそんな嬉しい感激が届くこともある、円卓のお弁当。そぼろ、おから、菜っ葉の炊いたん、だし巻きなど、気を衒わない、なじみのある献立。食べ慣れたものだから、なおさら違いを感じるのかもしれません。

    「基本の調味料は、みりん、しょうゆ、塩。そこに、味噌、ごま、梅、柑橘、山椒を合わせていく感じです。調味料が変わらないのに、味の違いを感じるのは、きっと素材の持ち味によるものだと思います。

    色、味、食感をバランスよく組み合わせて、いかに一つの世界をつくるか。お弁当は大変だけど、それが楽しいです」

    後編では、大切にしている季節のこと、オープンしたばかりのアトリエのことなど、さらにお話をうかがいます。

    画像: 自家製の保存食や料理道具が棚に並ぶ

    自家製の保存食や料理道具が棚に並ぶ

    画像: 友人にちゃぶ台で料理を振る舞い、ご縁をつないできたことにちなんで、円卓という名付けた。撮影:五十嵐邦之

    友人にちゃぶ台で料理を振る舞い、ご縁をつないできたことにちなんで、円卓という名付けた。撮影:五十嵐邦之

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    円卓 庄本彩美さん

    お弁当を主軸に、ケータリングやワークショップをおこなう。京都・西陣にあるアトリエは、オイベント開催時のみオープン。スケジュールはInstagramで。インスタグラム:@entaku_ayamii


    宮下亜紀(みやした・あき)

    京都に暮らす、編集者、ライター。出版社にて女性誌や情報誌を編集したのち、生まれ育った京都を拠点に活動。『はじめまして京都』(共著、PIE BOOKS)ほか、『本と体』(高山なおみ著)、『イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由』(イノダコーヒ三条店初代店長 猪田彰郎著)、『絵本といっしょにまっすぐまっすぐ』(メリーゴーランド京都店長 鈴木潤著、共にアノニマ・スタジオ)など、京都暮らしから芽生えた書籍や雑誌を手がける。インスタグラム:@miyanlife



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