(『天然生活』2020年8月号掲載)
ioriの精進料理とは?
殺生を禁じ、慈悲の心を大切にする仏教の教えを表した料理。「肉類、魚介類、五葷(ごくん=ねぎ、にら、にんにく、あさつき、らっきょう)、酒類を使わず、野菜や豆、穀物、海藻など自然からの恵みを大切にいただきます」
ある日を境にスパッと切り替わった食生活
精進生活を始めて22年。曉美さんと五月さんの台所には、ない食材がたくさんあります。
酒、みりん、かつお節、玉ねぎやねぎ、にんにく、肉、魚など。私たちが頼りにしている、ないと困ると思っているものばかり。
けれど、ふたりのつくる食卓は実に多彩。滋味深い煮物やあえものはお手のもの、餃子やコロッケなど王道家庭料理も常連メニュー、ケーキやゼリーもどーんと来い。精進料理のイメージが変わってきませんか?
精進での食生活をしてみようと思ったのは、妹の五月さんから。
「子育てが終わった40代半ばのころ、今後どうやって生きていこうか? ってもやもやしていたんです。そんなときに、精進料理を教えている知人のことを思い出し、料理を教わることに。何百年も前から仏教の修行僧の心身を支えてきた健康的な料理。殺生をしない菜食は、つくって食べて心地よく、『コレだ!』と思ったんです」
安らかな食生活は思いのほか楽しく、五月さんは姉を誘いました。そして、曉美さんは「面白そう!」とやってみることにしました。
「お互いにあえて言葉にはしなかったけれど、命あるものを食べるということに、引っ掛かりを感じていたんですよね。そんな迷いから解放されて、清々しく食生活を送れるようになりました」
肉や魚の代わりに大豆製品を活用して満足感を、油を上手に使って料理にパワーをみなぎらせ、のりで海を感じ、ごまで味に奥行きを出し……。
工夫と発見を重ね、精進の食生活を楽しんでいます。
「肉や魚を食べてはいけないという否定の発想ではなくて、自然や命を大事にという思いで精進料理に向き合っています」と五月さん。
精進生活が10年経ったころ、料理教室をふたりで主宰するようになりました。
「生徒さんには毎日は無理でも、週に1回でも精進料理の献立にしてみませんかと伝えます。やってみると安らかな食生活に心地よさを実感できるはずと思うし、何より、本当に簡単でおいしいから」と曉美さん。
「栄養学的にはもしかしたら十分かどうかわかりません。だけど、自分が20年以上続けてきて、心身ともに健康なんです」と曉美さんがいうと、五月さんも大きくうなずきます。
「私は以前、怒りをエネルギーに変えているような性格でした。でもいまは、怒ってもしょうがないってどっしり構えていられるようになりました。精進の暮らしが、穏やかにさせてくれているのかもしれません」
精進生活、5つのやさしい
食生活が育む「やさしい」についてioriからのメッセージ。
1 心にやさしい
精進生活をしているという核が自分のなかにできたことで、ものごとを俯瞰して見られる気持ちの余裕が備わったといいます。「迷いのない食は迷いのない心を育て、気持ちも穏やかに整えてくれるのではないでしょうか」
2 体にやさしい
消化にエネルギーのかかるお肉や魚を食べないため、内臓への負荷が減ったからなのか、体が軽くなったとioriのおふたり。「うれしいことに、いまのところは薬の世話にもならず、元気に過ごしています」
3 自然にやさしい
たとえば牛肉ととうもろこし、同量を生産するのに必要な土地、水、エネルギーを比べると、圧倒的にとうもろこしが少なく済みます。
「家畜から出るごみ、排泄物やゲップによる環境汚染などの問題によい影響があるはず」
4 私にやさしい
「精進料理で控えている五葷は、においや成分がきつく、五臓(5つの臓器)に負担が。五葷を食べないことで負担を軽減し、体を自然な状態に保つことができ、体からのサインもキャッチしやすくなります。」
5 あなたにやさしい
「 “あなた” は私以外のすべてです。精進料理は殺生しないというのが一番大切で、争わず、心身が穏やかになる。それが平和につながればいいなと思っています。小さな力も束になったら大きくなると信じて」
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〈料理・スタイリング/iori 曉美と五月 撮影/濱津和貴 取材・文/鈴木麻子〉
iori 暁美と五月(あけみとさつき)
7人兄弟の長女・曉美さんと、次女・五月さんの姉妹で神奈川・茅ヶ崎を拠点に活動。著書に『おばあちゃんの精進ごはん』(インプレス)などがある。
料理会の詳細はfacebook@曉美と五月_ioriの精進料理教室
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです