(『天然生活』2021年11月号掲載)
健やかさを育むのは、身近な素材と毎日の料理
料理家になる以前の会社員時代、IT関係の企業に勤めていたという齋藤菜々子さん。同僚は男性がほとんど、周囲に合わせて油が多く、ボリュームのある食事を続けていたら、体が重くなり、体調も何だかいまひとつ。そこで実家で食べていた食事を思い出し、野菜中心の料理をつくるようになったら、体も心も穏やかに整うようになっていきました。
「食べ物の力はすごい」「体は食事によってつくられる」、その強い実感が、料理家としての出発点になっています。その実感を理解する手段として齋藤さんが選んだのが、中医学と、中医学がベースになった薬膳でした。
「たとえば栄養学のように『一日に必要な栄養素は何g』とかいわれると、私にはちょっと難しく感じたんです。それとくらべて薬膳は、『体が冷えたときは長ねぎを食べよう』『おなかの調子が悪いときはキャベツを』というふうに、食材から入れるところに親しみが感じられたんです」
薬膳というと「高麗にんじんやクコの実といった特別な素材を使うもの」と思っている方も多いですが、普通のスーパーで手に入る身近な素材と普段の料理で実践できるもの。
そして薬膳の知識さえ頭に入っていれば、外食や店でお総菜を買うときなどにも、「いまはちょっとむくみがちだから、利尿作用のある食材が入ったものを選ぼう」といった具合に、体調に合わせてメニューを選び、不調の改善につなげることができるのです。
「しかも薬膳は基本的に『〇〇してはいけない』『〇〇を食べてはいけない』といった禁止はないんです。季節やその人の体調に合わせ、向き不向きを教えてくれる。そういう懐の深いところも、私にはしっくりきました」
「つくる楽しさ」が健康にもつながっていく
お母さまも料理上手で、季節の手仕事を楽しむ人だったと話す齋藤さん。初夏には何10kgと梅干しを仕込み、庭になる柚子をジャムにしたり、七味唐辛子にしたり。つくることは楽しみや喜びを増やすことだと、自然に教わりました。そんな楽しさの連続が、健康をも育む。家庭料理の持つ力です。
「そういえばコロナ禍以来、夫が在宅ワークをすることになり、野菜たっぷりの常備菜を中心にした食生活に切り替えたところ、何と9kgもやせたんです(笑)。改めて『毎日のごはんってすごい! 』と実感を強めました。私が提案するのは、ごくごく普通のレシピばかりですが、『普通のごはんこそ、本当にすごいんだ』ということを、これからも伝えていきたいと思っています」
病気にならないための私のお守り
植物性アルコールスプレー
30数年にわたり、農薬不使用・有機肥料で野菜を育てている岡山の「ミモレ農園」が手掛ける、除菌アルコールスプレー。
「とうもろこしやさとうきびを発酵させてつくったエタノールをはじめ、天然植物成分100%で、食べ物を扱うキッチンでもストレスなく使うことができます」
自家製の梅干し
毎年欠かさず手づくりしている梅干しは、疲れたときの特効薬。
「市販品と違い、梅・しそ・塩だけのシンプルな材料がいいんです。忙しい日が続いたときも、ひと粒口にすると元気が出ます」
ごはんにのっけて食べるだけでなく、煮ものやあえものに調味料的に使うことも多いのだとか。
〈撮影/有賀 傑 取材・文/田中のり子〉
齋藤菜々子(さいとう・ななこ)
一般企業に就職後、料理家のアシスタントを務めながら中医学・薬膳を学び、独立。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです