• ニッポン放送、朝の代名詞となっているラジオ番組『上柳昌彦 あさぼらけ』。「AM4:30」から始める番組には、さまざまな状況に暮らす多くのリスナーが集まっています。パーソナリティ上柳昌彦さんのタイトルコールと、「今日も今日とて」に込められた思いを紹介します。
    (『居場所は“心ここ”にある』−ニッポン放送 上柳昌彦 あさぼらけ−』より)

    朝、リスナー一人一人に届けたい言葉「今日も今日とて……」

    生放送のスタジオが、私の居場所と申し上げたが、放送でいちばん気持ちが高まる瞬間は、スタジオの「カフ」をスコンと上げる瞬間だ。そしてタイトルコールで、その日の自分の体調を見極めている。

    「〇月〇日〇曜日、ニッポン放送 上柳昌彦 あさぼら~け!」

    こうタイトルコールするときの、「ニッポン」の「ポ」と、「あさぼら~け」の「ら~」が、スッと出るかどうかで、だいたいの体調がわかる。

    最近では、新型コロナウイルス感染症の療養明けの翌々週は苦労した。コロナ明けの1週間はなんでもないと思っていたが、無理をしていたのだろう。のどに負担がかかったのか、2週目に声がかすれてきた。コロナをしのいだと思ったら、声がカスカスな感じになってしまったのは苦しかった。

    朝の番組を担当するアナウンサーのなかには、早く出社して、スタジオを閉め切り、発声練習をしている人も多いし、本当に素晴らしいことだと思う。

    私自身、昔ほど発声練習はしないが、スタジオで試しにやってみることもある。でも、いざ放送が始まり、マイクのスイッチのカフを上げたときの声は、全然違うのだ。

    私は声が重く、新人のころは宿直勤務で朝、「午前5時の産経ニュースです」とやると、報道部のデスクから「声が寝ぼけてるなぁ」とよくボヤかれたものだ。

    だから、朝は少し高めの声でしゃべることを意識している。あさぼらけでも、5時のスポーツニュースは私が読んでいる。原稿が入ってくると、下読みをすごく高い声で読んでいる。すると、本番ではそこまで高い声ではないが、少し上がったちょうどいい具合になるということを、なんとなく自分でつかんだ。

    画像1: 朝、リスナー一人一人に届けたい言葉「今日も今日とて……」

    「おはようございます! 5時を回りました。『あさぼらけ』です。上柳昌彦です。お目覚めはいかがでしょうか。今日も今日とて、(そして今週も)『あさぼらけ』、お付き合いいただきましょう」

    少し前に「今日も今日とて……」と話していたところを、「今日も京都で……」とずっと聴き間違えていらっしゃった方のメールを紹介したことがある。

    この「今日も今日とて……」という言葉は、かつて、私が聴いていた『パック・イン・ミュージック』(TBSラジオ)の冒頭で、林美雄さんがおっしゃっていた挨拶へのオマージュだ。

    林美雄さんは、私の声を初めてラジオに乗せていただいた人である。

    私が大学3年のころ、関東の多くの大学の放送研究会の人たちと交流するなかで、「放送井戸端会議」を企画し、ラジオドラマやCMのコンテストをやったことがある。このコンテストの審査員を林美雄さんが快く引き受けてくださり、優秀作品をご自身の『パック・イン・ミュージック』で放送してくださったのだ(詳細は拙著『定年ラジオ』を読まれたし)。

    林さんに自分の声を電波に乗せていただいたことが、私が「放送の世界に入りたい」と思う動機の一つとなった。なにしろ、私自身、ラジオに育ててもらい、ラジオに救ってもらった人間の一人だ。その思いを、いつしか「今日も今日とて……」という言葉に込めるようになった。

    あさぼらけの放送準備は、一人で夜中の1時20分に起きるところから始まる。2時半にニッポン放送に到着し、リスナーの方からのメールをちょこちょこ読んでいく。朝刊が届くと、新聞に線を引きながら切り抜きをやって、番組のスタートに備える。

    画像2: 朝、リスナー一人一人に届けたい言葉「今日も今日とて……」

    今日も今日とて……という言葉は、そのルーティンを昨日もやって、今日もやって、明日もやっていくということを、私自身が確認するために使っているところもある。

    ラジオを聴いている方のなかには、早い時間に起きて、パン屋さんはパンを作り、介護のお仕事の方は、介護されている方が起きてくる前の束の間に新聞を読み、コーヒーでひと息ついている方もいると思う。

    「今日もまた仕事が始まる」「やれやれ、この時間から仕事だ」という、お聴きの方一人一人の気持ちを込めた言葉が、「今日も今日とて……」なのだ。

    今は「頑張れ!」という時代ではない。「やれやれ」という気持ちと、「まあ、それでもなんとかやっていきましょうよ、今日も」という気持ちを、この言葉から酌んでいただけたら幸いである。


    本記事は『居場所は“心ここ”にある』−ニッポン放送 上柳昌彦 あさぼらけ−』(扶桑社)からの抜粋です



    上柳昌彦(うえやなぎ・まさひこ)

    1957年8月1日生まれ。立教大学法学部卒業後、1981年ニッポン放送にアナウンサーとして入社。「うえちゃん」の愛称で親しまれ2017年の退社まで様々なワイド番組を担当し、現在は『上柳昌彦 あさぼらけ』ラジオパーソナリティや『笑福亭鶴瓶 日曜日のそれ』パートナーのほかTV・映画・CMナレーション、イベントMCなどで活動中。2023年12月、初の番組本『居場所は“心(ここ)”にある』(扶桑社)を発売。

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    毎週月~金曜日、ニッポン放送朝の代名詞となっているラジオ番組『上柳昌彦 あさぼらけ』。“AM4:30”という「深夜のような早朝のような時間」からはじまるこの番組に、年齢性別を問わず多くのリスナーが集まってきています。

    パーソナリティの上柳昌彦さん、番組スタッフ、リスナーみんなのこれまでを振り返り、番組の誕生秘話や、日々の放送で生まれた物語などについて語られた初の番組本。2022年に上柳昌彦さんを突然襲った闘病生活から復帰までの想い、今まで語られてこなかった母との別れについても。



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