(『天然生活』2022年8月号掲載)
次の世代へバトンをつなぐ気持ちで
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
「ものは、人間よりも長く残っていく。言い換えれば、きちんと残せるものを選び取っていくことが、大切だと思っています」
窓に掛け、カーテンとして使っているのは楮(こうぞ)の和紙。日に当たるほど白さを増し、日差しの入り方がやわらかになります。
素材の力に惚れ込んで身に着けている大麻布(たいまふ)のブラウスは、洗いざらしが心地よく、どんどん肌になじみます。
「和紙は、そのときどきで暮らす部屋に合わせ、大きくも小さくも形を変えられます。ブラウスは、洗って落とせないほど汚れたら、染め直しができます。何より、私が使うと決めたなら、ずっとずっと、手元における強さがある。時を重ねて劣化するのではなく、魅力を増すものに囲まれて暮らすことは、シンプルに心地がいいです」
和紙も大麻布も、はるか昔から存在する素材です。ただ、いまでは暮らしの道具というところからは離れ、手に取りづらいのも事実。
「どんなものも、一時的に私の手元にあるだけ。ここは、次のだれかに渡すための通過点。もの選びにそんな感覚をもつようになりました。昔からあり、いまはその価値が見失われているもの。その存在をいかに身近なものとして次の世代に損なわずに渡せるか? そんな視点でものを選び取る時期に、差し掛かっているように思います」
経年変化を楽しむ、和紙のカーテン
使うほどに光の透過が美しくなり、手触りも少しずつやわらかになる和紙。
「昔は、読み終えた書物を……和紙を細く裂いて長い糸にして織り、紙布としていたそうです」
当時は、柿渋など撥水効果のあるものを塗るなどして、雨合羽としても使われていたとか。
「丈夫なものなので、布のような感覚で使うことができるんです」
貼り合わせた跡は、まるでパッチワークのよう。カーテン代わりに使うほか、壁にも1枚掛けて、タペストリー感覚で楽しんでいます。
日々やわらかに、ときに生まれ変わる大麻布のブラウス
「この素材の歴史はとても古く、縄文遺跡からも発掘されたそう。通気性にも保湿性にも優れていて、季節を問わず、身に着けているととにかく心地いいんです」
紡績が難しいために工業化が遅れ、廃れていった大麻繊維。その価値と存在が埋もれていた素材を、野村さんが、フローリストの壱岐ゆかりさんとともに手がけるプロジェクト「Life is beautiful」で商品化。
はじめは真っ白な状態を楽しみ、汚れが目立ってきたら少しずつ濃い色に染める。そんな長く愛用できる仕組みをつくりました。
少ない洗剤でしっかり泡立つ長持ちするたわし
漁業が盛んな北海道釧路市で、魚網を素材につくられるたわし。そもそも魚網は魚を傷つけないようにつくられているため、実はたわしにぴったりの素材でした。
「ロープが太いものはフライパンなどに、細いものはグラス洗いに、と用途によって使い分け。毛羽立ちが少なく丈夫で、1年ほどしっかり使えるため、むだなごみが出ないのもいいところです」
子育てや介護を担う地元の女性たちによる内職で、製作から梱包までを完結。女性の社会的自立の第一歩としても大きな役割を果たします。
幸せな記憶がめぐりめぐって戻ってくるグラス
野村さんが主宰するレストラン「eatrip」やショップ「eatrip soil」から出たワインの空きびんを使ったリサイクルグラス。
丈夫で使い勝手がよく、ぽってりとしたフォルムは安定感があり、気取らずに使える人気の商品です。
すべて1点もののため、形がちょっとずつ違うのも、ますます愛着がわく理由。
「ワインって、うれしいとき、楽しいときに味わうもの。そんな幸せな記憶が、また形を変えて手元に戻ってくるというストーリーを、皆さんが理解してくださっているんだと思います」
<撮影/山川修一 取材・文/福山雅美>
野村友里(のむら・ゆり)
東京・原宿で「restaurant eatrip」、表参道にて都市と産地をつなげる場「eatrip soil」を主宰。食を通じて人、場所、ものをつなげる活動を続けている。ケータリングの演出、雑誌の連載、執筆、ラジオのパーソナリティなど、多彩に活躍。著書に『会いたくて、食べたくて』(マガジンハウス)など。http://www.babajiji.com/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです