(『天然生活』2022年9月号掲載)
私の“もの”とのつきあい方
幼いころから、家がものであふれていることはありませんでした。毎日必ず食事のときに使っていたお皿は、母が自分の母親から譲り受けたもの。
先日実家に行った際、私も数枚もらってきましたが、もう100年以上たっているもののはずです。
同じものを長く、毎日使いつづけるのは、わが家では当たり前のことでした。そして、両親は見栄を張ることなくシンプルな暮らしをしつつ、家の中を常に居心地よくすることやきちんと装うことを大切にしていました。
私の子ども時代は、近所にお店はあまりありませんでした。服にしても既製品は少なく、生地を選んで専門店で仕立ててもらうのが普通。セーターは母親の手編みでした。
15歳になると母が「自分のものは自分で買いなさい」とお小遣いをくれるようになり、そこでものの値段や買い物の仕方をずいぶん学んだ気がします。
とはいえ10代のころは映画や旅行などにお金を使いたい気持ちの方が大きく、服は買うのがもったいないので自分でつくっていました。
ファストファッションがあふれているいまと違い、当時は服も高価だったのです。
“もの”を減らすことの利点
片づけが楽になる
ものが少ないと空間に余裕ができるため、出し入れしやすくなるほか、高い場所にしまうといった危ないことも少なくなります。床に置くものも減るので、掃除もぐっと楽に。
ものが減ると、ものを増やしたくなくなる
ものが少ない状態は見た目も心地よいうえ、一目で居場所がわかり、とても快適。この状態をキープしたいと思うようになるので、新たにものを買いたいという欲求が減ります。
人生について考える時間と余裕が生まれる
ものが多ければ多いほど、整理や片づけについて考える時間がとられることに。ものを減らせば頭の中にスペースができて、人生についてなど、より大切なことを思考できます。
すっきり暮らすためのアイデア
日常の中の視点を少し変えてみると、ものとのつきあい方が変わってきます。
できるだけよく知っているものを買いましょう
服や下着、日用品のお気に入りを見つけ、同じものを買いつづける。それが消費を少なくして、すっきり暮らすことにつながります。
よく知らないものを試しに買ってみたものの、期待と違って処分に困り、ものが増えてしまうといったことがなくなるからです。
これを買うと決めれば、新しく探す手間も時間も減らせます。日々の食事にしても、次々と違うレシピに挑戦すると、新しい調味料や食材を買わなければならず、結局使いきれずに残ってしまいます。
アイテムごとの数を減らしましょう
ふきんは5枚、雑巾は3枚もあれば十分に間に合うはず。それなのに、数えてみるとふきんはその数倍、雑巾も10枚くらい持っていないでしょうか。
使い古した際の予備にとっておいているのかもしれませんが、新しいものは手頃な価格ですぐに手に入ります。タオルやシーツなども、ひとりにつき2セットもあれば十分。
食器も、普段使いにも来客時にも使えるようなものが1〜2セットあれば、それで事足りるはずです。数を持ちすぎると管理が大変になります。
着なくなった服は、再び着てみて判断を
クローゼットの中に、この2年間、一度も着ていないという服が眠っていませんか。そうした服は、知らないうちに意識の片隅に残るでしょう。
そしてとっておくべきか、それとも処分するべきかというジレンマに悩まされつづけるのです。そんなときは、もう一度袖を通してみてください。
なぜか気に入らなくて着ない服に、最後に別れを告げる意味で着てみると、後悔なく手放せます。この服は自分のためにある服ではない、ということがわかるからです。
万人にとって便利なものはありません
一般には「便利」といわれているものを買ったのに、なぜか使いづらく、不便を感じていませんか。
ほかの人にとって便利なものであっても、自分にとっては場所をとるじゃまものでしかない、ということもありえます。
ものに対する迷いが生じたら「これは本当に私の暮らしを助けてくれるものなのか」という問いかけをしてみましょう。
友人からのアドバイスにも注意。彼らにとっての「便利」と自分にとっての「便利」は、必ずしも同じではないからです。
* * *
<取材・文/嶌 陽子 イラスト/須山奈津希>
ドミニック・ローホー(どみにっく・ろーほー)
著述家。フランス生まれのフランス育ち。パリ大学、ソルボンヌ大学においてアメリカ文学の修士号を取得。イギリスのソールズベリーグラマースクールにおいて1年間フランス語教師として勤務した後、アメリカのミズーリ州立大学、日本の佛教大学でも教鞭を執る。日本在住歴は40年。世界を広く旅し、特定の団体や、哲学または文化的なグループには属せずに、自分自身の内面にあるさまざまな観点に基づく意見を尊重し、それを受容することを信条としている。著書はフランスをはじめ、ヨーロッパ各国でベストセラーとなり、『シンプルに生きる』(講談社)は日本でも話題に。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです