王道の薬草から珍しい一品まで。膨大な情報量にあふれる「韓国」の生薬市場
天然生活webの連載「山下智道のハーブ&スパイス紀行」でもおなじみ、野草研究家の山下智道さん。
新刊『旅で出会った世界のスパイス・ハーブ図鑑 東・東南アジア編』(創元社)では、タイやベトナムなどアジア7か国を訪れ、出会ったハーブやスパイスを紹介しています。
韓国最大の生薬や薬膳食材の市場である、「ソウル薬令市場(ヤンニョンシジャン)」。
1960年代に自然発生した市場で、周辺には約800を超える韓方薬の関連店舗が並び、韓国の生薬の70%はこの市場から取引されているのだとか。
市場を訪れた山下さん、チョウセンニンジン、ツルニンジン、キキョウの根などがわんさかと積み上げられている光景に、とてつもないエネルギーを感じ、圧倒されたのだそう。
本記事では、山下さんが韓国で出会った薬草のなかから、参鶏湯(サムゲタン)料理にもよく使われる生薬「キバナオウギ」をご紹介します。
漢方薬に配合され、薬膳スープにもよく使われる生薬「キバナオウギ」
キバナオウギ
Astragalus mongholicus │マメ科ゲンゲ属
日本、中国東北部、朝鮮に自生あるいは栽培されている多年草。草丈は80cm~1mほどで、7月~9月頃に総状花序で淡い黄色の愛らしい花をつける。
根を「黄耆(おうぎ)」と称し、秋に刈り取った根を天日干しして生薬とする。
抗炎症、強壮、血管拡張作用などがあるとされ、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)、桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)などの漢方薬に配合されている。
韓国では「ファンギ」というメジャーな薬草で、市場ではゴボウのような根がワイルドにザルに入れて販売されている。
チョウセンニンジン同様、参鶏湯(サムゲタン)などの薬膳スープに加える。
キバナオウギが入ったスープは、カンゾウとまではいかないがほんのり甘く、独特の芳香がある。
※ 本記事は『旅で出会った世界のスパイス・ハーブ図鑑 東・東南アジア編』(創元社)からの抜粋です。
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▼韓国の生薬、そのほかの記事はこちら(山下智道さんのweb連載より)
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野草研究家・山下智道がアジア各地を旅して出会った風変わりでエキサイティングな植物たちを写真で案内する、新感覚のスパイス・ハーブ図鑑。
ネパール、タイ、ベトナム、マレーシア、フィリピン、台湾、韓国の7つの国で親しまれている香辛料、香草、薬草、野菜、果物、藻類などを、現地での様々な用途や日本で見られる近縁種とともに150種以上紹介。
植物を使った料理や製品、旅情あふれるマーケットや野山の風景も満載。
山下智道(やました・ともみち)
1989年、北九州市生まれ。生薬・漢方愛好家の祖父の影響や登山家の父の影響により、幼少から植物に親しみ、卓越した植物の知識を身につける。現在では植物に関する広範囲で的確な知識と独創性あふれる実践力で高い評価と知名度を得ている。国内外で多数の観察会、ワークショップ、ハーブやスパイスを使用した様々なブランディングを手掛けている。TV出演・著書・雑誌掲載等多数。主な著書に『ヨモギハンドブック』(文一総合出版、2023年)、『野草がハーブやスパイスに変わるとき』(山と渓谷社、2023年)、『なんでもハーブ284』(文一総合出版、2020年)、『野草と暮らす365日』(山と渓谷社、2018年)などがある。