(『天然生活』2022年4月号掲載)
なんでも手づくりだった母のお弁当をお手本に
料理するようになったのは、大学進学で一人暮らしを始めてから。
家を出るとき、母親が料理本を持たせてくれたそうです。
「栗原はるみさんの『ごちそうさまが、ききたくて』とか、うちの味に近いと思う本を持たせたのだと思います。私は5人姉弟の長女。母は料理上手だったわけではなく、レパートリーも少なかったのですが、子育てに追われるなか、ごはんはいつも手づくりしてくれていました。私が料理教室をするようになったのは、そんな母を見ていたからかもしれません」
お弁当をつくってもらっていたのは、高校時代。
ちょうど一番下の妹さんが幼稚園で、そっくり同じ、お弁当だったそうです。
「小さな子が食べやすいように、味付けは甘めでした。勉強で頭を使うからか、甘い味がおいしくて。ごはんにもよく合うんです」
森下さん自身もふたりの息子の母。お弁当づくりは保育園から始まり、14年になります。
「いざとなると、何をつくればいいかわからなくて、母のお弁当が手本になりましたね。ずっと食べてきた味は安心できる。息子たちにとってもお弁当といえば、思い出す味になっていると思います」
サンドイッチのお弁当は部活で遠出する日の定番。なかでもオムレツサンドが好きだったそう。
「母はパンも手づくりしていたんです。家族が多くていちいち買うのも大変だったからだと思います。食パンとレーズンパンくらいだったけど2、3日に1回は焼いていたから手馴れていました。そういえば、私も妹も弟の奥さんもパンをつくっていますね」
ジャムパンはくるっと巻くひと手間で、子どもも食べやすく。
当時は、市販のジャムだったけれど、「私が旬の果物で仕込んでいるので、近頃は実家のジャムも母のお手製です」
母から娘へ、娘から母へ。いまも手づくりの味が家族をつないでいます。
〈撮影/伊藤 信 取材・文/宮下亜紀〉
森下美津子(もりした・みつこ)
京都・御所南にて、パン・おやつ・料理の教室「日曜日のごちそう」主宰。インテリアの仕事から、料理家に転身。『木と根』やネットショップでジャムなど販売。著書『季節を家につれてくる 旬をみつける小さなごちそう』(京都新聞出版センター)。インスタグラム@nichiyoubinogochisou
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです