(『天然生活』2019年11月号掲載)
保存食や乾物を暮らしに。見える収納で整う京町家
京都一長いアーケードで名高い三条会商店街。地元の買い物客が行き交うこの商店街のすぐ近くに、山上公実さんの主宰する「キッチンみのり」はあります。
「うなぎの寝床」と呼ばれる、奥へ奥へと続く築90年以上の京町家。山上さんは3年ほど前にここを両親から預かり受け、家庭料理や保存食の教室を開いています。
実家が三代続く鮮魚と乾物を扱う食料品店ということもあり、さまざまな食材に囲まれて育った山上さん。幼いころから料理好きで、20代から続ける保存食づくりはライフワークのひとつに。

家庭料理や保存食の教室「キッチンみのり」を営む山上さん
「母がつくる姿を見て、知らずしらずのうちに覚えた」という梅干しをはじめ、味噌やぬか漬け、らっきょう、梅酒……。
数年前からは、さばの発酵食品である「へしこ」も加わり、土間にはさば30尾を仕込んだ大きな樽が置かれています。

味噌は昔ながらの木桶や常滑焼のかめで仕込んで
保存食づくりと並び、山上さんが熱心に取り組んでいるのが、ひじきや高野豆腐、切り干し大根など、乾物を使った料理です。
「乾物の魅力に改めて気づいたのは、飲食店で働いていたときです。さっと水でもどせば使えるので、時間がないときにもとても便利。
切り干し大根をはりはり漬けにしたり、高野豆腐を南蛮漬けにしたり、本当にいつも、おいしいお助け食材になってくれました」
乾物の多くは、干すことで栄養価やうまみが増していること、麩や豆などは包丁がなくても料理に使えること、山上さんからは乾物の優れた点がいくつも挙がります。

「毎年10キロほど漬ける」梅干しをはじめ、晴天の日は縁側で、季節の野菜や庭のハーブなども干しています
「保存が利くので非常食にもなります。私はふだんのごはんに使いながら、その都度買い足していくローリングストックをおすすめしています。おいしいうちに食べられますし、扱いに慣れておくと非常時でもあわてないと思うので」
市販の乾物にとどまらず、にんじんやきのこなど、そのときどきで自家製の干し野菜をつくり、料理に活用している山上さん。
「裏表を返しながら3~4日干して、手で触ってカラッとなっていたらでき上がり。わざわざではなく、冷蔵庫にある余り野菜をさっと切って干すことが多いですね」
煮物やカレーの具に、ちょっともどして炒めものやサラダに。彩りや食感のアクセントにも重宝し、紙で包んでから紙箱に入れておけば日持ちもするのだそう。

魚料理を主菜に、土鍋ごはん、あらめや蒸し干し大根など乾物を使ったおかずが並ぶ、おなじみの食卓
〈撮影/伊藤 信 取材・文/山形恭子〉

山上公実(やまがみ・ひろみ)
京都市生まれ。実家は鮮魚・乾物店を営む。飲食店での調理経験を経て、2016年秋より「キッチンみのり」を主宰。乾物を使った家庭料理の教室をはじめ、保存食の会やゲストを招いてのワークショップなどを開催。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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