• 14年前の大震災、原発事故を経て生まれた福祉事業所。仕事づくりを模索しつづけるなかで見いだされたものとは。小麦粉支援の申し出から始まった、小さな作業所の大きな挑戦。お菓子づくり、ミシンの手仕事、そして月に一度の「山の学校」。福祉を“開かれた場所”へと変えていく、その歩みの先にあるのは、「語り継ぐ」ということでした。
    (『天然生活』2024年6月号掲載)

    小さな仕事、大きなつながり

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです

    福祉サービスを「閉じられたもの」にしないために。福島の山あいに生まれた活動拠点「特定非営利活動法人しんせい」(以下「しんせい」)では、居場所づくりから一歩進んで、働くことを通じた協働のかたちが模索されてきました。その道のりは、予想外の出会いと広がりから始まります。

    複雑にフェーズの変わってゆく避難生活のなかで、「働く」ことの意義を問いなおした「しんせい」理事長の富永美保さんたちは、ここから、いかにして仕事をつくるかという試行錯誤の道を歩み始めます。2013年に「しんせい」を法人化したのも、その方策としての一歩でした。

    当時、仕事づくりを模索していたなかで抱えたジレンマとして、富永さんが語ったのは、「小さな作業所に大きな発注が入るミスマッチとチャンスロス」。そんな折に届いたのが、日清製粉グループからの小麦粉支援の申し出でした。

    「私たちが目指していたのは、障がいのある人たちに新しい仕事をつくること。だから、小麦粉ではなく、お菓子づくりの技術指導をしていただけないかと相談しました」と富永さん。

    ここから生まれたのが、日清製粉との協働、その協働に対して設備を支援するNGOや、販売を支援する企業との協働、さらに、ひとつひとつは小規模な福島県内の13福祉事業所の協働による「魔法のおかし ぽるぼろん」製造プロジェクトでした。

    画像: 「魔法のおかし ぽるぼろん」が焼き上がると、甘いシナモンの香りがふわっと立ちこめる。この日の調理担当は、「しんせい」の利用者のなかでもお菓子づくりが得意な小島涼太さん

    「魔法のおかし ぽるぼろん」が焼き上がると、甘いシナモンの香りがふわっと立ちこめる。この日の調理担当は、「しんせい」の利用者のなかでもお菓子づくりが得意な小島涼太さん

    画像: その日の作業当番が細かに書き出されたボード。持ち場は適材適所で、午前と午後で交代する

    その日の作業当番が細かに書き出されたボード。持ち場は適材適所で、午前と午後で交代する

    画像: 丸い型で抜いた「ぽるぼろん」の生地を天板に並べる。外周から内周へ、が小島さんのルール

    丸い型で抜いた「ぽるぼろん」の生地を天板に並べる。外周から内周へ、が小島さんのルール

    画像: 「ぽるぼろん」の箱に付ける丸いタグは、押し花のしおりでくりぬいた部分の紙を活用

    「ぽるぼろん」の箱に付ける丸いタグは、押し花のしおりでくりぬいた部分の紙を活用

    地域、組織、立場を超えて、知恵と手と思いを寄せ集めることで、各々が得意な領域で無理なく役割を持ち得る、新しい仕事のかたちをつくり出したのです。

    画像: 色とフォルムの合わせ方につくり手の個性が表れる押し花のしおり。花は、作業所の鉢植えと、野の花、ともに製作するボランティアからの差し入れ

    色とフォルムの合わせ方につくり手の個性が表れる押し花のしおり。花は、作業所の鉢植えと、野の花、ともに製作するボランティアからの差し入れ

    画像: しおり製作を担当するスタッフ、宇田春美さん(左から3人目)は、震災直後から富永さんと活動してきた心強いパートナーのひとり

    しおり製作を担当するスタッフ、宇田春美さん(左から3人目)は、震災直後から富永さんと活動してきた心強いパートナーのひとり

    このプロジェクトを通して体得した協働の手法は、2015年に立ち上げた「ミシンの学校」プロジェクトにも生かされることに。

    「ブラザー(工業株式会社)さんからミシンの支援のお話があったときには、難しいかなと思いましたが、聴覚障がいのあるひとりの利用者さんが、やってみたいと手を挙げたことで実現できました」と富永さん。

    画像: 刺しゅう用ミシンを黙々と使いこなし、図柄を仕上げていく利用者の石田健太郎さん。聴覚障がいがあるため、ときにミシンの不調に気づけないこともあるが、周りの利用者やスタッフがサポートしているそう

    刺しゅう用ミシンを黙々と使いこなし、図柄を仕上げていく利用者の石田健太郎さん。聴覚障がいがあるため、ときにミシンの不調に気づけないこともあるが、周りの利用者やスタッフがサポートしているそう

    画像: 色とりどりのはぎれをコラージュしたコースター。コンタクトレンズ店が、プラスチック回収に協力した顧客にお礼として配っている

    色とりどりのはぎれをコラージュしたコースター。コンタクトレンズ店が、プラスチック回収に協力した顧客にお礼として配っている

    画像: はぎれコースターを製作する作業台の脇には、実物大の工程説明が貼り出されている

    はぎれコースターを製作する作業台の脇には、実物大の工程説明が貼り出されている

    カラフルなバッジも刺しゅうのワザ!

    以来、布小物づくりは「しんせい」の主要事業のひとつとなり、ミシン操作を得意とする人や、細かな手仕事に集中力を見せる人、色使いにセンスを発揮する人などが、彩り豊かな製品を生み出しつづけています。

    画像: 布小物に付けるタグ。ミシンスタンプの脇に、ミシンがけされているようにはぎれを貼って

    布小物に付けるタグ。ミシンスタンプの脇に、ミシンがけされているようにはぎれを貼って

    しんせい
    福島県郡山市西ノ内1丁目25-2



    <撮影/星 亘 取材・文/保田さえ子>

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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