• 車椅子の母、ダウン症の弟、認知症の祖母…現在「戦略的一家離散」と称して、それぞれ“自立”しながら暮らす、作家・岸田奈美さんの家族。岸田さんが考える、家族のあり方、距離感の探り方とは? 岸田家の印象的な“言葉集”も紹介します。
    (『天然生活』2024年9月号掲載)

    愛はすごく大切だけど、愛だけでも解決できない

    デビュー作のタイトルは、『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』。岸田さん自身、家族“だから”愛すべき、と考えたことは一度もないのです。

    「私の場合は、“愛する人たちを自分が選んだ”という自覚があるんです。私は母から、『良太には障害があるから、良太のこと嫌いやったらいつでもあんたは“お姉ちゃん”をやめていい。家を出ていったっていい。良太のことは気にせんでいい』といわれ続けていたんです。

    でも私は、むしろ良太が弟でいてくれたほうが誇らしい気持ちになれた。得しているのは、私のほう。自分が家族でいることを選び続けているわけだから、何が起こっても『まあ、しょうがないか』って思えるんですよ」

    岸田さんが世に知られるきっかけとなったネットの文章も、良太さんにまつわるものでした。

    「文章を書き始めたころ、私は大きく自信を失って会社を休み、鬱々としていました。そんな私を弟が、『温泉行こうや』と誘ってくれて、ふたりで1泊の旅行に出たんです。私はずっと心のどこかで、“私が弟を助けている”と思っていたけれど、その旅で彼のたくましさに驚いたし、むしろ何度も助けられて。

    彼は、関わる人が自然に手を差し伸べたくなる空気をつくっちゃうんです。どちらかというと、私は頼ったり、助けられたりするのが苦手だから、それがうらやましくもあって。家族でも家族でなくても、味方をつくる能力、差し伸べられた手を素直に受け取る能力は、とても大切なんじゃないかと。

    たとえば母は、すごく責任感が強い人で、弟をグループホームに入れることも、祖母を施設に入れることも最初は渋ったんです。『家で面倒を見たい』と。父が亡くなったあとも、責任のすべてを引き受けて、ほとんど寝ずに働いて、動いて、明るく振る舞っていました。

    そんな無理も原因のひとつと私は思っていますが、大動脈解離を起こし、車椅子になった。どう考えても家族だけじゃ抱え込めないこともある。愛している気持ちだけじゃ、解決できないこともあるのもまた、事実」

    画像: 家族は、一番近くにいるのに一番わかり合えない存在。「だから、甘えもあって深く傷つけ合ってしまうケースもあるんです」

    家族は、一番近くにいるのに一番わかり合えない存在。「だから、甘えもあって深く傷つけ合ってしまうケースもあるんです」



    〈撮影/杉能信介 取材・文/福山雅美 構成/鈴木麻子〉

    岸田奈美(きしだ・なみ)
    1991年生まれ。兵庫・神戸出身。関西学院大学人間福祉学部社会起業学科卒業。自称:100文字で済むことを2000字で伝える作家。デビュー作『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)が話題となりForbesの「世界を変える30歳未満の30人」に選出される。「note」も更新中。
    X(旧ツイッター):@namikishida

    『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった +かきたし』(岸田奈美・著/小学館文庫)

    画像: 作家・岸田奈美さんに聞く“家族を愛せる”距離の探り方。毒親とか親ガチャとか「都合のいい言葉」に流されてしまわないように

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    ※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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