(『天然生活』2024年9月号掲載)
その日その日で、愛せる距離を探る
昨今、家族だからこそ、その関係に悩む人も多いといいます。一緒にいても“毒”にしかならない親を指す、“毒親”という言葉も生まれました。家族は、その近さゆえに、他人以上に深く傷つけ合ってしまうこともあるのです。
「私、毒親とか親ガチャとかそういう言葉、苦手なんです。ネット上にあふれる言葉というのはセンセーショナルであるほど、悪意があるほど流行るから、どうしてもみんな、そういう強い言葉に流されてしまう。でも、 “毒親”っていう単語ひとつに落とし込まれた瞬間に、いろいろなものが固定化されてしまうと思うんですね。もちろん、本当につらいのなら、そばにいなくていい。離れていい。ただ、“言葉”で決めつけなくてもいいはずで」
家族だから愛する必要もないけれど、複雑であるはずの愛せない理由を単純な言葉に置き換える必要もないのです。
「決めなくていい。宙ぶらりんがいい。都合のいい記号みたいな言葉でくくってしまったら、そこで思考停止。大切なのは、相手を愛せる距離を探ること。うちのおばあちゃん、認知症なんですけど、症状にすごく波があるんですね。暴言吐いて、クイックルワイパー振りかざして追っかけてくることもあれば、やさしく気遣ってくれることもある。だから私も、おばあちゃんを好きな日もあれば、きらいな日もある。その日その日で、愛せる距離を取ればいい。今日は無理だと思ったら、しばらく離れて、また近づいてもみる。それでいいと思うんです」

いまでも半年に1回くらいは姉弟ゲンカをする。「几帳面な弟とだらしのない私、の対立です」
〈撮影/杉能信介 取材・文/福山雅美 構成/鈴木麻子〉
岸田奈美(きしだ・なみ)
1991年生まれ。兵庫・神戸出身。関西学院大学人間福祉学部社会起業学科卒業。自称:100文字で済むことを2000字で伝える作家。デビュー作『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)が話題となりForbesの「世界を変える30歳未満の30人」に選出される。「note」も更新中。
X(旧ツイッター):@namikishida
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです