• 車椅子の母、ダウン症の弟、認知症の祖母…現在「戦略的一家離散」と称して、それぞれ“自立”しながら暮らす、作家・岸田奈美さんの家族。岸田さんが考える、家族のあり方、距離感の探り方とは? 岸田家の印象的な“言葉集”も紹介します。
    (『天然生活』2024年9月号掲載)

    岸田さんの家族の言葉集、5選

    弟はむかしから、みんなが上手にできる大抵のことは、みんなより下手だった。うまくしゃべれない、はやく走れない、文字を覚えられない。それでも弟が、まったく悔しそうでも、さみしそうでもなかったのは、とにかく弟がいいやつだからだ。いいやつになるっていうのは、ひょっとすると、勉強よりむずかしい。いいやつは、どこへ行っても好かれる。

    『傘のさし方がわからない』(小学館)

    大好きだった父が、心筋梗塞で死んだとき。私の豊かさとは「健康であること」から、はじまった。

    『傘のさし方がわからない』(小学館)

    「子どもたちのために強くならなって思ったら、無敵やわ」

    母はひらひらと手をふって、笑う。ああ。母という生き物は強い。マジで強い。最強。

    『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)

    贈与は、もらった人に直接返さないほうがよい。なぜなら交換になってしまうから。だけど、この世界は贈与でできている。断ち切ってはいけない。じゃあどうすればいいのか。

    またわたしが、別の人に贈与をするのだ。好きなときに、好きなだけ。

    『傘のさし方がわからない』(小学館)

    かのチャップリンは、「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」と言った。

    わたしことナミップリンは、「人生は、一人で抱え込めば悲劇だが、人に語って笑わせれば喜劇だ」と言いたい。

    皆も心当たりがあるだろう。悲劇は、他人事なら抜群に面白い。ユーモアがあれば、人間は絶望の底に落っこちない。

    『もうあかんわ日記』(ライツ社)



    〈撮影/杉能信介 取材・文/福山雅美 構成/鈴木麻子〉

    岸田奈美(きしだ・なみ)
    1991年生まれ。兵庫・神戸出身。関西学院大学人間福祉学部社会起業学科卒業。自称:100文字で済むことを2000字で伝える作家。デビュー作『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)が話題となりForbesの「世界を変える30歳未満の30人」に選出される。「note」も更新中。
    X(旧ツイッター):@namikishida

    『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった +かきたし』(岸田奈美・著/小学館文庫)

    画像: 作家・岸田奈美さんに聞く“家族を愛せる”距離の探り方。毒親とか親ガチャとか「都合のいい言葉」に流されてしまわないように

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    ※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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