(『天然生活』2024年9月号掲載)
岸田さんの家族の言葉集、5選
1 弟はむかしから、みんなが上手にできる大抵のことは、みんなより下手だった。うまくしゃべれない、はやく走れない、文字を覚えられない。それでも弟が、まったく悔しそうでも、さみしそうでもなかったのは、とにかく弟がいいやつだからだ。いいやつになるっていうのは、ひょっとすると、勉強よりむずかしい。いいやつは、どこへ行っても好かれる。
『傘のさし方がわからない』(小学館)
2 大好きだった父が、心筋梗塞で死んだとき。私の豊かさとは「健康であること」から、はじまった。
『傘のさし方がわからない』(小学館)
3 「子どもたちのために強くならなって思ったら、無敵やわ」
母はひらひらと手をふって、笑う。ああ。母という生き物は強い。マジで強い。最強。
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)
4 贈与は、もらった人に直接返さないほうがよい。なぜなら交換になってしまうから。だけど、この世界は贈与でできている。断ち切ってはいけない。じゃあどうすればいいのか。
またわたしが、別の人に贈与をするのだ。好きなときに、好きなだけ。
『傘のさし方がわからない』(小学館)
5 かのチャップリンは、「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」と言った。
わたしことナミップリンは、「人生は、一人で抱え込めば悲劇だが、人に語って笑わせれば喜劇だ」と言いたい。
皆も心当たりがあるだろう。悲劇は、他人事なら抜群に面白い。ユーモアがあれば、人間は絶望の底に落っこちない。
『もうあかんわ日記』(ライツ社)
〈撮影/杉能信介 取材・文/福山雅美 構成/鈴木麻子〉
岸田奈美(きしだ・なみ)
1991年生まれ。兵庫・神戸出身。関西学院大学人間福祉学部社会起業学科卒業。自称:100文字で済むことを2000字で伝える作家。デビュー作『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)が話題となりForbesの「世界を変える30歳未満の30人」に選出される。「note」も更新中。
X(旧ツイッター):@namikishida
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです