• 2023年95歳で笹餅づくりを引退した、青森の笹餅名人・桑田ミサオさん。現在98歳のミサオさんの笹餅人生の転機は、60歳。その年に笹餅をつくり始め、75歳で起業しました。長年笹餅に愛情を注ぎ、自分で考え、経験から学んだ勘をたよりに、自分のものさしで歩んできた人生。「生きていれば自分に起こることすべてが勉強。何事もあきらめないことだ」と語るミサオさんの、老いを受けとめながら歩み続ける姿を紹介します。
    (『天然生活』2024年2月号掲載)

    「生きていればすべてが勉強」「何事もあきらめない」という人生訓

    ミサオさんの手には収穫したばかりのりんごがひとつ。

    それは数年前から息子さんが育て始めたものです。

    画像: りんごを手にし、「少しかたいね、田舎の方言でいえば、青臭いっていうの。でも、まあ、りんごはりんごの味だから」

    りんごを手にし、「少しかたいね、田舎の方言でいえば、青臭いっていうの。でも、まあ、りんごはりんごの味だから」

    画像: 息子・清次さんが育てるりんご。「植えればなんとかなると思っていたけど、やっぱり勉強しないとだめ。りんごはとくにそうで農家の人たちは樹木医だ」と清次さん

    息子・清次さんが育てるりんご。「植えればなんとかなると思っていたけど、やっぱり勉強しないとだめ。りんごはとくにそうで農家の人たちは樹木医だ」と清次さん

    「私はりんごに限らず、果物は何でも好きだね。ただ年をとって歯が悪くなってからはりんごはきざんで食べる。シャリシャリではないけど、薄く切って甘酢をかけておくとしっとりして、やわらかくなるの。こうやっておけば色が変わらないし、いつでも食べられる。りんごをすりおろして大根おろしに混ぜて食べることもあるし、サラダに入れてもいい」

    そういってりんごが漬けてある容器を出してくれました。

    画像: 収穫するには若干早いね。熟していないと実がかたくて、渋みもちょっとあるから、今日は皮をむいて使う。赤がきれいだから皮をむかずに使うこともあるよ」

    収穫するには若干早いね。熟していないと実がかたくて、渋みもちょっとあるから、今日は皮をむいて使う。赤がきれいだから皮をむかずに使うこともあるよ」

    そこにはなしと柿も漬け込まれています。

    思わず、おいしそうと声が。早速味見させてもらうと、それぞれの味わいが増しているかのよう。

    いたずらっぽい笑みを浮かべながらミサオさんはいいます。

    画像: 転倒に気をつけながら、無理してでも動かないと、もう動けなくなってしまうからと、日々の家事を行うミサオさん

    転倒に気をつけながら、無理してでも動かないと、もう動けなくなってしまうからと、日々の家事を行うミサオさん

    「なしはさ、『柿なんかに負けるものか』って思うの。りんごは『柿なんかに負けるもんか』、柿は『なしとりんごに負けるものか』。みんながみんな、負けるものかって。で、私は『りんごさん、がんばって 柿さんがんばって なしさん、だれにも負けないように』という気持ちで漬け込むの。だからなしも柿もりんごも、より以上の味が出てくるんだと思うよ」と。

    画像: 秋の果物、なし、柿、りんごを甘酢で漬けた。それぞれの甘さが引き立ち、味わいもさわやか

    秋の果物、なし、柿、りんごを甘酢で漬けた。それぞれの甘さが引き立ち、味わいもさわやか

    画像: 毎朝、お仏壇に供えるお膳の器に、ゆでブロッコリーとりんごの甘酢漬けを盛りつける。りんごの赤が入ることでポッと明るい雰囲気に

    毎朝、お仏壇に供えるお膳の器に、ゆでブロッコリーとりんごの甘酢漬けを盛りつける。りんごの赤が入ることでポッと明るい雰囲気に

    「つくったものは必ず味をみて、いつもと同じようにつくっても味が悪かったら、あれ、なぜだろうって考えるよ。体の調子が悪いのかな、舌が鈍くなったのかなって。老いるというのは、こういうことかと考えてもみたり。笹餅をつくらなくなってから、何を求めれば悔いのない人生を送れるのかと考えるけど、むずかしいな......。でもまあ、生きていれば、自分に起こることすべてが勉強だと思うわ。それと何事もあきらめないことだな。これもだめだじゃ、あれもだめだじゃ、とすれば何もできないからあきらめないことだわ」

    生きていくうえで力になるミサオさんの言葉、しっかりと心にきざみました。

    画像: りんごを切ったら甘酢をかけておく。しばらくすると、しなっとしてやわらかくなる。調味されているらっきょう酢を使うこともある

    りんごを切ったら甘酢をかけておく。しばらくすると、しなっとしてやわらかくなる。調味されているらっきょう酢を使うこともある

    画像: りんごと一緒に盛りつけたのは、菊花と薄切りきゅうりの甘酢漬け、輪切りの鷹の爪を飾って完成

    りんごと一緒に盛りつけたのは、菊花と薄切りきゅうりの甘酢漬け、輪切りの鷹の爪を飾って完成

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    笹餅おばあちゃんの手でつくる暮らし(桑田ミサオ ・著/扶桑社)|amazon.co.jp

    天然生活の本
    『笹餅おばあちゃんの手でつくる暮らし』(桑田ミサオ ・著/扶桑社)

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    <撮影/衛藤キヨコ 構成・文/水野恵美子>

    桑田ミサオ(くわた・みさお)
    1927年青森県・津軽生まれ。保育園の用務員を退職後、60歳から農協の無人販売所で販売する笹餅をつくり始める。山に分け入って笹の葉を採り、材料のこしあんから全て手づくりする笹餅は、またたくまにおいしいと評判となり、75歳で本格的に起業。79歳で津軽鉄道「ストーブ列車」に乗りながら、車内販売を始めると、「ミサオばあちゃんの笹餅」として注目を集める。2020年には、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に、「たった一人で年間5万個の笹餅を作り続ける職人」として取り上げられる。平成22年度農山漁村女性・シニア活動表彰 農林水産大臣賞受賞。令和3年春の勲章 旭日単光章受賞。95歳で笹餅づくりを引退する。

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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