移住先での“はじめての家づくり”でたどり着いた、理想のキッチン

「わたしがキッチンに求めることってなんだろう」
はじめて家を作る中でいちばん考えたのは、やっぱりキッチンのことでした。
建て替えのため手放した東京の部屋は最初からリノベーションされていて、そこを使いやすいと何の問題もなく使っていたから、自分は平均的に使いやすい場所があれば十分なのかなと思っていたのです。
でも今思うと、忙しくなってくると次第に雑然としてしまうことに悩んではいて、わたしは片付けができないのだな、しょうがないのかな、と思っていました。
家を作るなかで、たくさんの参考資料をむさぼるように見て、最終的に自分のキッチンに求めたことは「有機的な場所でありたい」ということでした。
いのちをつなぐ、食べものを扱う場所だから。それから、わたしは美しいものは好きだけど片付けは苦手なので、雑然としていてもサマになるキッチンにしたかった。

そんなとき「来月、モールテックスの講習を受けるんすよ」と大工の中村さんが言いました。
防水性があってお風呂や洗面にも使われるモールテックスという塗料はなめらかなコンクリートのような質感をしていて、わが家にはすこし都会的すぎると思っていたのですが、色見本をみせてもらったらサンドベージュの色が美しくて、ああ、これかもしれない、そう思いました。
ワントーンのグラデーションにしたら美しいだろうな。きっと、これまで集めた道具たちとしっくりくるだろう。

わたしと同じで、中村さんは自分のやってみたいことだと俄然はりきる人。すぐに作ってみたいんじゃないかな、と思ったのです。いい予感のようなものがありました。そこから話はすぐだった気がします。
キッチンの配置と細かいディテール。その顔になる作業台はどんなふうにするか。中村さんとは海外のキッチンの写真を見せあいながら、イメージをすりあわせていきました。
昨年11月に始まった工事は、1月に入ってから室内に移行して、2度現場に行って打合せ。細かい点はオンラインで確認させてもらいました。

家づくりは、見える部分ができるのは最後のターン。最後の1週間でキッチンが形になり、引き渡しの日、思った以上の仕上がりを見て、心からほっとしました。
それまで、家づくりと並行して、引っ越しとお店の移転作業、そして書籍を作っていたので、いちばんはじめにかたちになったその場所を見て、とにもかくにもまず安堵したのです。

「あなたは空間をつくることにとても向いている。いずれそれが仕事になっていくよ」
いわゆる”視える”友人にそう言われたことがあったのを、このときまでずっと忘れていたのだけど、突然思い出しました。そうかもしれない。わたし、これ、得意なのかもしれない。
家づくり、ほんとうに楽しかった。今冬に2階の工事を残していますが、あと3回くらいやりたい気持ちです。笑
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料理は、あなたのお守りになる。
東京から北海道と千葉へ。2拠点生活をはじめるまでの日常と料理。
疲れたときにも作りたくなる24篇のレシピとエッセイのほか、ふじわらの人気商品「納豆辣油」の家庭用のレシピほか、たれレシピを収録しています。

撮影/伊藤徹也
藤原 奈緒(ふじわら・なお)
料理家、エッセイスト。“料理は自分の手で自分を幸せにできるツール”という考えのもと、商品開発やディレクション、レシピ提案、教室などを手がける。「あたらしい日常料理 ふじわら」主宰。考案したびん詰め調味料が話題となり、さまざまな媒体で紹介される。共著に『機嫌よくいられる台所』(家の光協会)がある。9月17日に初の著書『あたらしい日常、料理』(山と溪谷社)が発売となる。
インスタグラム:@nichijyoryori_fujiwara
webサイト:https://nichijyoryori.com/
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